Santa Claus Is Coming!
Santa Claus Is Coming!







12月24日 深夜。


この日、「彼ら」は一年で最も忙しい夜を迎える。
世界中の子供たちへプレゼントを贈る彼らを、人々はこう呼ぶ。
「サンタクロース」と。
そしてここにも、プレゼントを贈ることに情熱をかけたサンタとトナカイがいた。

「Zzzz…」
「寝るなぁ!」

ポカリ、と頭を殴る音。
それによって、ようやく真っ赤な服を着た彼は目を覚ました。

「う〜…なんだよ、夜くらい眠らせてくれよ…」
「サンタが今夜眠ったら意味ないでしょ、タイチ!」

クリスマスのクセに爆睡するというサンタとしては大失態を犯した彼の名前は八神 太一。
「全世界聖ニコラス連盟日本支部東京地区」担当のサンタクロースの一人である。
そして彼を起こしたのはソリを引くトナカイ「役」のアグモンであった。
ちなみに彼、両手でソリに繋がったロープを引っ張っている。
何故、地上を歩くデジモンであるアグモンがソリを引っ張りながら空中を歩行しているのかは秘密である。

「あ〜くそ…今日は忙しいんだよなぁ、一晩中。もっと睡眠とっとけば良かった…」

多くのサンタはこの晩に備えて昼は睡眠をとっていたのに、彼は悪友と一緒に直前までトランプをしていたのだった。

「よぅタイチ、張り切ってるか?」

と、アグモンのソリの真横にもうひとつのソリが並んだ。

「ん〜…ヤマトか…」

寝ぼけ眼を擦りながら太一は隣のサンタを見る。
隣についたサンタの名は石田 ヤマト。
彼も太一と同じく東京地区担当のサンタで、若いながら「サンタのエース」として周りから一目置かれている。
彼のソリを引っ張るのは、彼の相棒のガブモンである。

「その様子じゃ、一日中起きてたな?今年もお前がプレゼントを配り終わるのはビリだろうな」
「な…言わせりゃ勝手なことを!いいか、今年はお前よりも早く終わらせてやる!」
「へーそうか、去年は朝まで時間がかかった太一さん?」

そうなのだ。
毎年太一はプレゼントを配り終わるのが東京地区のサンタでビリ。
それどころか、去年は25日の朝までプレゼント配りが終わらなかった。
そこを突かれ、言い返せない太一サンタ。

「ぐ…」

それを見ながらフフン、と笑顔で一瞥するヤマト。
ガブモンがソリのスピードを上げながらアグモンに言った。

「じゃーな、俺たちはさっさと配り終わるぜ。」
「なっ、僕とタイチの方が先だい!」
「ははっ、そりゃ何百年先のクリスマス?」

そう言うと、ガブモンはスピードを上げ、ソリはたちまち離れていった。
その後ろ姿を見ながら太一とアグモンは燃える。

「よっしゃアグモン!意地でも今年は先に配り終えるぜ!」
「うん!」



早速一軒目の家へとつく太一。
気づかれないよう、そろりと子供の部屋へ入る。
どうやって鍵のかかった部屋に入れたのか。
それは彼らしか知らない。

「え〜っと、このコは何が欲しいのかな?」

太一が「サンタ専用データ入り携帯」の「プレゼントリスト」を調べる。
ほどなくして記録が現れた。

 『八神 ヒカリ  テイルモンぬいぐるみ』

「アグモン、ぬいぐるみだ!」
「OK!」

アグモンが太一が運んできた「四次元おもちゃ袋」を調べる。
袋の中はど●えもんのポケットのような異世界になっており、おもちゃが大量に運べるのだ。

「えぇっと…これだ」

アグモンがポケットからテイルモンのぬいぐるみを引っ張り出す。
ぬいぐるみは形に特徴があるので、すぐに見つかる。

「これでよし…と」

太一が枕元に慎重に置く。
するとリストに文字が現れた。

 『八神 ヒカリ  テイルモンぬいぐるみ/配達完了』

「アグモン、次いくぜ」



打倒ヤマトを目指す太一は、すぐに二軒目に到着した。
今度はベッドで男の子が寝ていた。
外見からして、先ほどの女の子と同じくらいの年齢だ。

 『高石 タケル  PS2用ゲームソフト』

「げっ、ゲームソフトかよ…」

先ほどのぬいぐるみとは違って、ゲームソフトは小さく、形もみんなほとんど同じなので見つけにくい。
はっきり言って太一はこのプレゼントが好きではなかった。
「やる方」に回るのは好きなのだが。

「ぶつぶつ言ってないで、探すしかないでしょ」

アグモンが四次元袋を広げて探しながら言う。
結局、ゲームソフト一本見つけるのに10分近くかかった。

「あぁ、こんな時間かよ!ヤマトに先越される!」
「急ごう、タイチ!」

 『高石 タケル PS2用ゲームソフト/配達完了』

素早くプレゼントを置くと、再び出発する二人。



その後、暫くは順調に進んだ。

 『一乗寺 賢  パソコン/配達完了』
 『氷見 友樹  アドバンスSP用ソフト/配達完了』
 『塩田 博和  カードゲーム/配達完了』
 『源 輝二  バンダナ/配達完了』


そして、十数軒目。
そろそろ疲れてくる頃である。

「ふぅ、けっこう来たな」

額にうっすらと汗を浮かべながら太一が言う。

「そうだね…」

太一よりも遥かに汗をかいているアグモンが答える。
二人は次の子供の部屋に入った。
そこにはぼっちゃん刈り(死語)の子供が寝ている。

「見るからに冗談が通じなさそうだな…」

当たり。あ、いやいや…コホン。

「で、この子は何が欲しいの?」

アグモンが太一の携帯を覗こうとしながら聞く。
 
 『火田 伊織  …』

だが、太一が答える。

「そんなこと、聞く必要もねぇよ。あれ見ろ」
「?あぁ、サンタさんへのお手紙だね」

たまに子供はサンタクロースへ尊敬の意を込めて手紙を書く。
そこには大抵、自分の欲しい物(=注文)が書かれている。
そして、今回もそのようだ。

「で、何が欲しいの、この子は?」

だが、太一は手紙を読むと、何も答えなかった。

不信に思ったアグモンは手紙を横から読んだ。


「サンタさんへ。
お仕ごとおつかれさまです。
もしこの手紙を読んでいるのなら、ぼくのところにも来てくれたのですね。
ぼくは今ほしいものがないので、おかしでじゅうぶんです。
ぼくなんかのところに来てくれて本当にありがとうございます。
では、どうちゅうおきをつけて。
火田 伊織」


…。
アグモンが唖然としながら言う。

「うわぁ…今時こんな子いるんだ…」

しかし、隣で太一は小刻みに震えていた。

「く…くくっ…」

アグモンが太一を見ると、なんと感動して泣いている。

「エライ、偉いぞこの子は…」
「た、タイチ?」
「素晴らしい!」

目から鼻から耳から(?)体内の水分を流し、太一は猛烈に感動している…というか、感動してるのであろうか、このリアクションは。
単に壊れてしまったような気もする。
このアグモンの推測は八割がた合っていた。

「アグモン!今すぐプレゼントだ!お菓子だけじゃねぇ、ありとあらゆるものだ!」
「えぇ!?ちょ、ちょっと!」

数分後、伊織の枕元には一日一時間計算でも食べ切るのに1ヶ月はかかりそうな菓子の山、PS2(薄型)、
Xbox、ゲームキューブ、ニンテンドーDS、PSP、そしてパソコンが置かれていた。

「ぐすっ、済まないな坊や、俺に出来るのはこれくらいだ…」

いや、そんな事言う前に、この大量の贈り物…。
明らかに異様な光景であった。
しかし、太一は涙を拭くと、颯爽とUターンしながらアグモンに言う。

「よっし、いくぞアグモン!この子からもらった勇気を糧に、ヤマトに勝つんだ!」
「ま、待ってよ!おもちゃには予備が無いんだよ!?」
「いいから行くぞ!過ぎたことを悔やんでも仕方ない!振り向くな!」

なんかキャラ変わってる気が…行き過ぎてる、とも言い換えられる。

 『火田 伊織  お菓子/配達完了…というか、やり過ぎ』



数分後。
次の子供の家につく。
そして最初にアグモンが感じたこと。
ほぅら、言わんこっちゃない。

 『松田 啓人  PSP』

「…やっちまった!やべぇ!どうするアグモン!」
「知るかー!」

先ほど火田家に置いてきたPSP。
太一の配達分にはあれ一機しかなかった。

「う〜ん…仕方ない、取りに戻って…」
「一度渡したおもちゃは回収しちゃいけないってプレゼント配達法で決まってるでしょ!」

子供の夢を壊してはいけない、という理由でプレゼントを取り返すことはサンタクロースの法律でタブーとなっていた。
うぅむ、どうするべきか。

しかし、幸運の女神、いやマリア様は彼らを見放してはいなかった。
ふと、太一たちの耳にシャンシャンシャン…という鈴の音。
少しづつ、こちらに近づいてくる。

「!」
「近くに別のサンタが来てる!」

啓人の眠る子供部屋の窓を開け、太一は上空を走るサンタクロースに手を振った。
幸い気づいたようで、サンタとトナカイがこちらに向かってくる。

「あれ、太一さんじゃないですか!どうしたんですか一体?」

そのサンタは一年後輩の泉 光子朗であった。
後ろにトナカイのテントモンもいる。

「光子朗…すまん!」
「えっ!うわっ、なんですか!」

太一は光子朗が窓にソリをつけるな否や、ソリに乗り込んで彼の四次元袋を探り始めた。
必死で太一を引き剥がそうとする光子朗。

「光子朗、頼む!PSPをくれ!」
「何言ってるんですか!これはこの近くの子供に渡すことになってるんです!」
「そこを何とか!」
「何とかなりません!大体自分のはどうしたんですか!?」
「あーそれが、勝手に別の子の家に置いてきちゃって…」

太一の代わりにアグモンが答える。
刹那、太一が光子朗の袋からPSPを奪ってしまった。

「あぁっ!」
「悪い、もらうぞこれ!」

しかし、ここまで。

「プチサンダー!」
「ベビーフレイム!」
「ほぎゃあぁぁぁ!」

テントモンとアグモンの必殺技が太一に炸裂した。
シュウウウウ…と煙を上げる太一の手からアグモンがPSPを取る。


一段落して。

「仕方ありませんね…本部に連絡して、代わりを持ってきてもらいましょう。」
「何ッ、そんなことできるのか!?」
「知らなかったの!?」

万一のトラブルに備え、サンタ本部にはプレゼントの予備があり、そこからプレゼントを送ってもらう、という方法があった。
だが、サンタであるにも関わらず、このシステムを太一は知らなかったようである。

「じゃあ今までのはどうしてたの…?」

今までもこういうトラブルを太一は起こしていた。
そういう時、太一はどうしていたのか。

「え〜と…別のプレゼントをあげてた。」
「…。」

少なくとも、これ以降はちゃんとプレゼントを届けよう。
頬がアグモンのアッパーで腫れ上がった太一は誓った。

 『松田 啓人  PSP/配達完了(トラブル発生)』





光子朗たちに別れを告げ、いよいよプレゼント配りも佳境である。
8割ほど配り終えたが、ここからがキツい。
体力的にもキツいし、時間との戦いでもある。

 『柴山 純平  スタンプ保存用アルバム/配達完了』
 『李 健良  ワクチンソフト/配達完了』
 『井ノ上 京  スキャナ/配達完了』
 『姫野 留姫  デザートイーグル41口径/配達完…』

「ちょ、ちょっと待て!なんだデザートイーグルって!」

大口径自動拳銃です。

「なんでそんなものが四次元袋に…って入ってる!」
「明らかに銃刀法違反でしょ、これ…」

アグモンもツッコむ。
大体、何故こんな物が欲しい?
よっぽど恨みがある奴がいるのか、このコ?
あ!遼か…。

とりあえず問題に巻き込まれるのは嫌なので、さっさと牧野家を抜け、次の家へ。
次が最後の配達である…お、結構いいペース。
この調子ならヤマトを抜けるかも。
だが、次の家が太一にとっては最も過酷であった。



静かに部屋へ入る太一とアグモン。

「おじゃましま〜…」
「どりゃぁぁぁぁ!」

突然、拳が二人を襲った。

「「うおぉっ!?」」

急ぎ避ける太一とアグモン。

「な、なんだよ一体?」
「まだ起きてたの!?」

しまった、見つかったかと思いながら二人は飛び掛ってきた少年を見る。
頭にはゴーグルをかけており、年齢は11歳くらい。
髪型は3年前の太一に似ている。
しかし、太一を何より驚かせたのはその表情であった。
顔は怒りに歪み、目は白目を剥いている。
そして鼻からはフーセンが…。
…フーセン?

「「(ね、寝てる…)」」

夢遊病か、コイツ。
しかも今の叫び声、寝言か。
有り得ない。
だが、目の前で現実に起こっている。

「我が領域を侵す悪魔め…死をもって償うがよい!」

これ寝言か、本当に?
だが鼻チョーチンを出し、たまにカクカクと頭が曲がる。
う〜ん、エクソシ●トみたいだ。
感心する暇もなく、再び襲い掛かってきた。

「死ねぇぇぇ!」
「うおぉっ!」

再び殴りかかってきた少年の拳を太一は必死で受け止める。

「タイチ!」
「く…落ち着けアグモン!」

しかし、次の瞬間強烈な蹴りが太一の腹に入る。

「ぐ…」
「タイチっ!」

しかし、太一は少年の腕を離さなかった。
少年に攻撃しようと、アグモンが近づく。
だが。

「やめろ!」
「!どうして!」
「お、俺たちは…子供にゆ、夢を配る仕事だろ?子供を傷つけるなんて、サンタ失格だ!」
「…!!」

その言葉にアグモンは胸を打たれる。
そうか、太一はそこまでして己の「サンタ道」を貫くのか。
太一の心にはそれほどまでに硬い信念があるのか。

「止めじゃぁぁ!」

恐ろしい勢いで(眠ぼけている)少年は太一に止めを刺そうとする。

「くそ…」

鈍い音が響いた。


「…」
「…」

太一は眼を開いた。
痛みがない。
何故。
答えはすぐにわかった。

ヤマトが少年の拳を受け止めていた。

「なんだよ、この状況…」
「ゴメンな、まだ朝じゃないからさ」

そう言いながら、ガブモンは少年の後ろに回り、当て身で気絶させた。

「ヤマト…」
「お前の負けだ、俺の配達はもう終わった」
「くそっ…畜生…」

傷だらけの太一はその場に座りこみ、頭を抱えた。
自らのサンタ道を貫いた太一。
だが、勝負には負けた。
十分太一は頑張ったよ、そんなセリフは彼にとって慰めでしかない。
アグモンは自らのパートナーの涙を見ながら、悲しみを共有した。
強くなろう、サンタとして。
志をもつ者として。
アグモンは静かに心に誓った。


やがて、太一が口を開いた。


「さっきのセリフ、噛んだ…。」
「「「(そっちの後悔かよ!)」」」

三人同時に、心の中でツッコんだ。



「で、改めてコイツが最後だな」
「何がプレゼントなの?」
「待て待て、今調べるから」

太一が携帯を取り出し、先ほど大暴れした少年の贈り物を調べた。

 『本宮 大輔  つけもの石』

「何故!?」

全員でツッコむ。
なんでそんな物欲しがるんだ、クリスマスに?

「ふ、ふふふふ…ならお望みのものをプレゼントしようじゃねぇか…」
「た、タイチ?」

太一が不敵な、サンタらしからぬ笑顔で言う。
何か悪巧みを考えている顔だ。



「ちょ、ちょっとタイチ!無理だってそれ!」
「大丈夫だって」

なんと太一は、プレゼント(=つけもの石)を無理やり枕元に吊り下げられた靴下にねじ込んでいた。
靴下はブチブチと、ちぎれかけていた。

「これでよし、と」

そして大輔の頭の位置を靴下の真下に修正する。
ま、まさか…。
アグモンの脳裏に、恐ろしい想像が浮かぶ。

「子供をケガさせちゃいけないんじゃなかったの、タイチ!?」
「何が?俺はプレゼントを贈っただけだぜ?」

笑顔でアグモンに言う太一。
それを唖然としながら見るヤマトとガブモン。

自分の信じた「サンタ道」は…。
アグモンは自分の理想が崩れていくのを感じた。

「さ、行こうぜ」

太一が全員を引き連れ、部屋から急いで出て行く。
大輔の頭上では、時限爆弾が爆発寸前であった。



数分後、本宮家。


ごすっ。
「イデェェェッ!」

 『本宮 大輔  つけもの石/配達完了』



そして。

12月25日 早朝。
朝焼けの中、二台のソリが空中を走る。

「タイチ…あんなことしちゃダメだよ…」

アグモンがソリを引っ張りながら太一に言う。

「目には目を。痛みには同じ痛みを与えないと」

太一が勝手に納得しながら言った。

「…ま、結局今年も俺の勝ちだった訳だ」

ヤマトがさらりと太一に言った。

「…まぁ、雰囲気的には俺の方が勝ってたがな」
「何ィ?負け惜しみかよ」
「何だと!」
「「ちょ、ちょっと!二人とも!」」

喧嘩が勃発しかけている二人に、急いでアグモンとガブモンが仲裁に入った。

「もぅ…あ、そうだタイチ、最後の仕事がまだ終わってないよ?」
「あ、そうだったな」

太一が、朝日を受けて輝きはじめた街に顔を向けた。
クリスマスに、サンタクロースのする最後の仕事。

「あぁ、今年はお前が言う番だったっけ?今度は噛むなよ」

ヤマトが笑顔で言った。

「絶対しねぇよ、バカ」

そう言って、太一は思いっきり息を吸い込む。
そして、叫んだ。

「MERRY CHRISTMAS!」

言葉と共に、降り注ぐ雪。
夢見る子供たちへの、もうひとつのプレゼント。



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