最近は暖かくて、風がキモチイイ。
外では、お日様が顔を出してる。
こういう日は外で遊ぶのが一番なんだよ。
今日は公園に行ってみたんだ。
まだ、タカトやヒロカズやケンタは帰ってきてないみたいだけど、この時間には必ずコドモがいっぱいいる。
タカトよりも背が低いコドモたち。
みんな、「ヨウチエン」っていう所に通ってるんだって。
初めて会った時は、ギルモンのことを怖がった子もいたけど、すぐにトモダチになったんだ。
今はよく、クルモンと一緒に公園に行って、みんなと夕方まで遊ぶんだよ。
今日もクルモンと一緒に行ってみたんだけど、ちょっとフンイキがいつもと違った。
みんなが困ったような表情で、砂場に集まってた。
何があったんだろう?
「う、ぅ…うわぁぁぁん!」
いきなり、泣き声が聞こえてビックリした。
「くるっ?どうしたんで〜すか?」
「あっ、クルモン、ギルモン…」
トモダチのケーゴが、困った顔でギルモンたちを見た。
「ミチルが…ヘアピン無くしちゃったんだ」
「くる…外れちゃったくる?」
「うん…遊んでるうちに外れちゃったの…」
小さな声でそう言って、ミチルはまた泣き出した。
「オレたちもこの辺探したんだけど、見つからなくってさ…」
「何せ、とっても小さいヘアピンだから…」
「…ねぇミズイロ、それってどんな形してるの?」
え?という顔で、ケーゴとミズイロはギルモンを見た。
「ギルモン、ミチルのヘアピンを探す。だから少しだけ待ってて。ね?」
「…うん…わかった」
ミチルは、少し笑った。
前に、タカトに教えてもらった。
悲しい顔は、それだけで他のイキモノを悲しくさせる。
でも、笑った顔は、それだけで他のイキモノを嬉しくさせる。
ニンゲンもデジモンも、それは同じ。
だから、同じ顔なら、笑った顔の方がいい。
…ミチルの髪の匂いは、公園から外に出て行っていたみたいだった。
それも、ついさっき。
もしかしたら…。
ケーゴ、ミズイロたちは公園、ギルモンとクルモンは公園の外を探すことにした。
とても小さいモノだから、見つからないかもしれない…そんなことはみんな分かってたけど、誰もそれを言わなかった。
公園を出て、商店街の近くの狭い道を歩く。
道路をゆっくりと歩いてみるんだけど、やっぱり、中々見つからない。
でも、少しだけど匂いは感じる。
「あれ?ねーインプモン、あそこ見て」
「お?何だよ、ギルモンじゃねぇか!」
向こう側から、よく知っている顔が歩いてきた。
インプモンと、二人のパートナー。
「何だよ、クルモンも居るのか?どーしたんだよ、オレたち、今から公園行こうと思ってたんだけど…お前らは行かねぇの?」
「インプモン、それが今大変なんだ…」
「タイヘン?何かあったの?」
「ミチルが、お気に入りのヘアピンを無くしちゃったくる…」
「うん。それでギルモンたち、ヘアピン探してるんだ」
アイもマコトも、みんなとよく遊んでいるから、ミチルのことはよく知ってる。
ミチルのお気に入りのヘアピンのことも。
「ミチルちゃんのヘアピンが…」
「インプモン、ぼくたちも探してあげようよ!」
アイもマコトも、ミチルのことが心配みたい。
だけど、インプモンは…。
「ん〜…何だよ、そんなメンドクセーこと…ヘアピンなんかまた買えばいいじゃねぇかよ。大体、無くしたりする方が悪いっての!」
「インプモンっ!」
「探してあげようよ!」
「あのなぁ、こういうのは手伝うだけムダなんだよ!苦労するだけなんだし…」
そこで、インプモンの頭の上に、何かが「降って」きた。
べちゃっ。
「…」
何となく、嫌な音。
ゆっくりと、インプモンは手を自分の頭に近づけた。
「…うわっ!何だよこれ!」
白い、雨みたいなモノ。
「げぇ…鳥のフンだ!」
それを見たクルモンがくすくすと笑い出した。
「くる〜!インプモン、バチが当たったくる!」
「ぐっ…何なんだよ、一体!」
空を見上げると、何度も同じ場所を回る影が。
「あっ、鳥だ!」
「!ヤツか!フザけやがって!この…ナイトオブ…」
「あぁ〜!ダメだよインプモン!」
「止めるなマコ〜!」
マコトがインプモンを引き止めた。
やっぱり、バチなのかな…なんて考えて、ギルモンも空を見上げる。
…ん?
「…あ?どうしたギルモン?」
「…匂うよ」
「?」
何度も同じ場所を回ってた鳥が電線に止まった。
鳥さんはなんだか、不機嫌そうな目でこっちを見てる。
「…あ」
クチバシの先が、キラリと光った。
小さな花のついた、見落としそうなくらい小さいピン…。
「「「あっ!あー!!」」」
「あのヘアピンくる!」
「…何だと?」
間違いなかった。
確かに匂いはあのヘアピンからだったし、形も見覚えがあった。
でも…。
「あっ、逃げた!」
ちらりとこっちを見てから、鳥さんは飛んでいっちゃった。
「ちょ、ちょっと待ってくる〜!」
「逃がすかっ!追うぞ!」
「あれ?インプモン、手伝ってくれるの?」
「うっ……し、知るかっ!オレはアイツを懲らしめたいだけだ!」
「…やっぱり、インプモンだね」
「…何がだよ、ギルモン!」
何がって、性格が。
鳥さんを追いかけていたら、いつの間にか広い空き地に行き着いた。
そこで聞こえてきたのは、歌うような、聞いたことのある声。
「由良の門を 渡る船人 がちを絶え…」
「う〜ん…」
空き地で座りながら、何か、デジモンカードとは少し違うカードを広げて、地面と睨めっこしてたのは…レナモンとテリアモン。
何してるんだろう…ギルモンたち、探しているモノを一度忘れて、見入っちゃった。
なんだか、二人とも静かにしていて、空気がピリピリしてる気がする。
「…え〜っと、下の句…何だか忘れちゃったよ〜…」
テリアモンは地面に置かれた、たくさんのカードを見回してた。
レナモンの方は、正座して目をつぶっている…と思ったら、いきなり目を開いて、一枚のカードを手で弾いた。
…???
「猶予の30秒は過ぎた…この句は『由良の門を 渡る舟人 かぢを絶え ゆくへも知らぬ 恋の道かな』…だ、テリアモン」
「…も〜、全然覚えらんないよ〜。下の句を読まなきゃ分かるはずないじゃんか〜」
「百人一首とは下の句を読まないのが掟だ。大体、下を読まなくてもいいと言い出したのはテリアモンだろう?」
「そ〜だけどさ〜…あ、ギルモンだ〜」
テリアモンはぺたりと仰向けに寝転んだら、ギルモンたちに気づいた。
「テリアモン、何してるの〜?」
「ひゃくにんいっしゅ、って言う、かるたみたいなヤツ。ね〜ギルモン、僕とチーム組まない?レナモン強すぎ〜。
クルモンも手伝ってくれない〜?」
「あ、ごめん、テリアモン…実は、今ね…」
ギルモンの代わりに、マコがテリアモンたちに、さっきと同じことを話してくれた。
テリアモンもレナモンもミチルのことは知ってたから、すぐに返事をくれた。
「…成る程。それは大変だな…大切な宝物を無くしてしまったのか」
「…それでお前ら、探すの手伝ってくれないか?その鳥がヘアピンを取って行っちまって…探してるんだけど、見つからないんだよ」
「もう見えなくなってずいぶんくる…クルモンたちだけじゃタイヘンくる〜」
「も〜まんたい!そういう事ならぼくたちも手伝うからさ!」
「本当?わぁい、テリアモンありがと〜!」
嬉しかった。
みんなが、こうやっていっしょに探してくれることが。
ミチルにヘアピンを返したら、みんなが手伝ってくれたことも教えてあげなきゃ。
「…ところで、その鳥だが」
「何、レナモン?」
「…特徴が似通っているが、あの電柱に留まっているのは違うのか?」
…え?
レナモンが指差す、空き地に近い電柱。
そこのてっぺんに…あの鳥さんはいた。
クチバシには、まだあの花がある。
「「「…あ〜〜〜っ!!」」」
「追うぞっ!」
「待て〜くる〜!!」
みんなで電柱のほうに行こうとしたけど、それがいけなかったみたい。
鳥さんはまた、飛んでいった。
でも、今度はレナモンが逃がさない。
電柱に登って、鳥さんの行く先を追いかけた。
「…こっちだ、急ぐぞ!」
「うん…待って、鳥さん!ミチルのヘアピンを返して!」
鳥を追いかけていたら、何時の間にか元来た道を戻ってた。
辿り着いたのは、最初の公園。
そこには、まだケーゴたちが、泥だらけになってヘアピンを探していた。
「あ、ギルモンが戻ってきた!」
「インプモンたちもいる!」
「…ギルモン、見つかった?」
でも、鳥さんは…。
「…ごめん、ギルモンたち、たくさん探して、鳥さんが持って行っちゃったことは分かったんだけど…」
「見つからなかったんだ…ごめんね、ミチル」
「ギルモン…」
ミチルも、ギルモンたちに近づいてきた。
「ギルモン…私のヘアピン、もういいよ。みんなが探してくれただけで、私、うれしい」
悔しかった。
ここまで頑張っても、返してあげられないことが。
でも…まだだった。
「…居たぞ!」
レナモンが言った。
鳥さんは、公園の真ん中に立ってる、とっても高い木の、一番高い所の枝に留まってた。
「!そこに居たか…野郎〜ッ!」
「くる?インプモン?」
インプモンが一番最初に走り出して、木をすごいスピードで登った。
「うぉらああぁぁ!動くなよ!!」
やっぱり、さっきのフンが原因かなぁ…。
そんなことを思っているうちに、インプモンは一番高い木の枝に到着してた。
「…よ〜しよし、動くなよぉ…さぁ、とっととそのヘアピンを返…痛ダダッ!てめっ、突くな…痛ァ!!」
そんな声が上から聞こえたと思ったら…空からインプモンが降ってきた。
「う、うわっ!!」
受け止める…暇も無いうちに、インプモンは地面にぶつかった。
大きな音と一緒に、インプモンは頭から地面にめり込んだ。
「…ぐっ…誰か助けろぉ!!」
「…しょ〜がないなぁ、インプモン…」
テリアモンとマコトが両足を引っ張って、インプモンを助けようとした。
引っ張ると地面から「イダダダ!」って声が聞こえてきた。
「…どうしよぉ…せっかく、持っている鳥を見つけたのに…」
「…待っていて…私が今から取って来る」
レナモンが、ジャンプしようと姿勢を低くした。
でも、その時…木の上から、小さな、高い声が聞こえた。
…もしかして。
あそこに居るのは。
「待って!レナモン!」
「…どうした、ギルモン?」
レナモンが驚いて、ギルモンを見た。
ちょっと危ない気もする…木の上に登るのも、レナモンみたいに得意じゃないし。
でも…さっき聞こえた鳴き声が、ギルモンの耳に残ってた。
「…ギルモンが登る!」
「…ギルモンが?…待て、危険だ…私ならこの程度の高さは慣れているし、隙を見れば鳥を傷つける必要も…」
「そうじゃないんだ!ギルモンに登らせて!」
「…?」
「あと、その前に…ちょっと待ってて!」
「あっ…ぎ、ギルモン?」
それからギルモンは、振り返って、急いでタカトの家に帰った。
「…どうしたんでくる、ギルモン…?」
「…あ、戻ってきた」
ギルモン、できるだけ早く戻った。
「何してんだよ、お前…それは?」
「コレ!タカトのお父さんが作ってる、ギルモンパン!」
「…は?」
「お願いして、お店から1個貰ってきた!」
タカトの家で作ってるパンは、みんなおいしいけど、このパンがやっぱり一番おいしいと思ったから。
「…あのなぁ、お前腹減ってボケたのか?そんなことしてる暇あったら、さっさとミチルのヘアピン取り戻して…」
「うん!ギルモン、これから鳥さんに、ミチルのタカラモノ返してもらう!だから…ちょっと待っててね、マハナ」
「?…う、うん」
それで、ギルモンは一人で木を登った。
ギルモンパンは口にくわえた。
いつもなら、すぐに食べちゃいそうだけど…今は、そうはいかない。
「…ギルモン…」
途中で1回、足を滑らせたけど、落ちなかった。
それからは足にも気を配って、一気に登った。
「…はぁ、こんにちは、鳥さん」
まだ、一番上の枝に鳥さんはいた。
鳥さんは、ギルモンをジロリ、と睨んだ。
鳥さんのすぐ近くには、草の塊でできた巣。
その中には、小さい赤ちゃんが5羽、声を上げて鳴いていた。
「…やっぱり、いたんだ。下からでも声が聞こえたんだよ、鳥さん」
鳥さんはまだ、ギルモンを睨んでる。
「コレ、おいしいんだ。赤ちゃんたちも食べられると思うよ。
だから…鳥さんの持ってるヘアピン、返してくれない?ギルモンのともだちの、タカラモノなんだ…」
鳥さんは、目の前に置かれたギルモンパンを見て、またギルモンを睨み返した。
「…駄目、かな?」
少しの間、静かになった。
それから…鳥さんは、ヘアピンをギルモンの目の前に置いてくれた。
「も〜…ギルモン、また泥だらけになってるじゃん…」
「へへ、ごめんねタカト〜」
夕方、タカトにちょっとだけ怒られた。
「公園に行ってたの、ギルモン?」
「うん」
「にしても…なんでここまで汚れたんだろ…ずっと砂場で遊んでたとか?」
「え〜っとね…ギルモン、トモダチに笑顔になってもらったんだ」
「…へ?」
「タカト、前に言ってた。デジモンもニンゲンも、笑った顔の方がいいって」
「…ん〜?そんなこと言ったっけ?」
「言ってたよ〜!忘れたの、タカト?」
「覚えてないかも…いつ?」
「も〜…え〜っと、…忘れちゃった」
「…何それ」
何だか、また面白くなってきて、タカトもギルモンも、お腹を押さえて笑った。
クルモンも、インプモンも、アイも、マコトも、レナモンも、テリアモンも、ケーゴも、ミズイロも、
それにマハナも。ヘアピンが戻ってきたら、笑った。
みんなが笑ったら、ギルモンも一緒に笑った。
今のタカトとギルモンみたいに。
鳥さんと、鳥さんの赤ちゃんたちも、笑っていたのかも。
手伝うときも、笑うときも…やっぱり、いっしょがいいね。
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