ナノモンによる町工場作業日誌
ナノモンシリーズ 第一章



        

○月×日

レッドデジゾイドはその強度から大変魅力的ではあるが高価で、少なくとも大量生産する武器の素材としては向かない。
やはり、純度を多少下げたクロンデジゾイドでの生産が現状では一番望ましい。

それはさておき、今日は特異な出来事があったので記録しておく。
正午の頃、空から人間の女が降ってきた。
親方を呼ぼうと思ったが、この町工場には自分ひとりしかいないことに気がついた。
話を聞くと、どうも彼女は私のパートナーである可能性が濃厚であった。

私は困惑した。
そもそも私はこの工場をひとりで運営する立場で、人間と共に旅をする暇などとても取れない。
このことを伝えると彼女は、

「だってこのデジヴァイスがあなたと一緒に世界を救えって言ってたのよ!」

と反論していた。
デジヴァイスの機能やメカニズムには多少興味があるが、何処からとも知れぬ声を簡単に信じるのは非常に不合理だ。
よくこの街に住むデジモンはパートナーを持つデジモンの羨ましさや、一緒に旅をすることの素晴らしさを語るが、私には全くもって理解し難いことだった。
私はこうした疑問点をパートナーであるらしい彼女に出来る限り分かりやすく(人間の知能がどれほどのものか、この時の私には未知数だった)説明したが、彼女は何故か怒り始めた。

口論を十分ほど続けたが終わらなかったので、この場はやむを得ず、彼女を作業場に泊めることにした。
彼女は渋々といった感じながらも、他に行き先がないために了承した。
せめてもの彼女への機嫌取りのため、食料と風呂(人間は機械型デジモンではないため、オイルではなく湯を張ったもの)を用意した。

風呂を用意した時点では彼女は喜んでいたが、入浴している間に衣服を着替え用として複製するため拝借すると、彼女は激怒して私を蹴り飛ばした。
着るものが無くなって困るのは衣服という無駄な文化のある人間の方だろうに、彼女が怒るのは非常に理解し難い。
しかしながら、全裸の彼女に蹴り飛ばされた時、私の興奮=快感ルーチンが何故か起動したという点については、十分な動作チェックが必要である。
バグである可能性も含め、今後調査していくべきだ。





○月■日

本日ようやく、サヤコ(昨日の日誌に記録していたテイマーである。また年齢は14歳で、これは人間としてはまだ成長期であるとのこと)との間で取り決めがなされた。
現在私が受注している新型大砲の設計が終わるまで彼女はこの場に留まり、私の補助として働く。
その代わり設計が終わり次第、期限付きで彼女の冒険に同行すること。
この条件は私にとっては必ずしも理想的とは言い難かったが、今受注している大きな仕事はこれだけであったし、ある程度不在にしても問題ない工場なのは確かだった。
補助として働くと言っても、当然ながらサヤコに専門知識は無いため、書類整理や掃除のような雑務が中心となる。
考えればこの作業場は長い間まともな整理をしていなかったため、この日の仕事には大変な労力を伴ったらしく、サヤコは昼の休憩時間に横になるとすぐに寝込んでしまった。
私には基本的に昼食は必要ないので、この時間の内に昨日問題があった快感ルーチンのチェックを行うことにした。
やはり興奮=快感ルーチンの動作はサヤコをトリガーとしているらしく、それは寝ている彼女の衣服を剥がすと増加した。
特に短めの腰巻きを捲り、白い布を目視した時に、ルーチンの反応が最も大きかった。
だがその直後、目覚めた彼女に殴られたため、これ以上の動作チェックは不可能であった。





○月▼日

また新たな取り決めが増えた。
サヤコは昨日・一昨日の私の行動に必要以上の不満を抱いているらしく、私がサヤコの身体及び衣服に触れることは一切禁止となった。
私はこのことに抗議し、興奮=快感ルーチンが動作したという事態の重大性について説明したが、彼女はますます激怒して私を蹴り飛ばし、議論を強制的に終了させた。
仕方がないので当分は設計の作業に集中することとするが、睡眠時など機会があれば(あるいは、故意の行動ではないと相手が判断するような状況を作ることが出来れば)また調査を続けるようにする。





○月△日

特記事項なし。
街酒場のジョン(ナニモン)の所に新しいオイル酒が入荷されていた。
一本持ち帰るが、サヤコが自分の飲み物と間違えて飲んでむせていた。





×月◆日

明日には設計が終わる見込み。
夜中にサヤコの睡眠が深かったため、快感ルーチンのチェックを行おうとするが、記録の保存が終わる前に激しく殴打され記録が消去、検査は出来ず。





×月□日

新型大砲の設計が終了。
即日、付近にある大工場のイビルモンが引き取りに来た。
今回の新型は安価でも頑丈な設計となっており、究極体クラスのデジモンの直接攻撃でもない限り破壊することは不可能だ。
イビルモンは大変満足した様子だったが、お茶を運んできたサヤコを見るなり、

「ヒャッハー人間じゃねぇか!」

と叫んでいた。
私がサヤコのパートナーデジモンであることを説明するとイビルモンは驚き、手土産が出来たと喜んでサヤコを縛り付け、引き取っていった。
予定が狂ったことは残念だが、この作業場には常時機能している監視カメラがあるので、その映像で快感ルーチンのチェックを行うことにする。
サヤコを縛り付ける映像に、意外にも快感ルーチンが反応した。





×月●日

広大なネットの海には人間の動画も時々流れているが、その中でサヤコと同様の人間の女性が裸で映っている動画を発見した。
昨日の監視映像も、何度も見ている内にルーチンの反応が鈍ってきたので、こちらの動画を利用する事にする。
30本ほどの動画を視聴後に気づいたが、快感ルーチンはサヤコと同じような年齢且つ胸囲が小さい女性の方がよりよく動作する。
サンプルは多い方が良いので、引き続き動画の調査を続ける。





×月▽日

人間の利用しているネット掲示板にて人間の女性に関する書き込みを見かける。
「映像が無いから参考にならない。zipを要求する」と書き込んだところ無視された。





×月×日

重大な事実が判明した。
サヤコが連れていかれて一週間経ったが、設計分の入金はあったものの、未だに私の銀行口座にサヤコを納品した分の入金がない。
イビルモンに問い合わせてみたが、何故か話が噛み合わない。
一週間前の映像を確認してみると、どうもサヤコは連れ去られたらしい。
しかもイビルモンの話によると、サヤコはそのまま、ロリコン(少女性愛趣味の意)の特性を持つスカルサタモンへ売られることになっていると言う。
これは由々しき事態であるが、不覚にも私と、イビルモンが運営するメフィスト・エンジニアリング南部工場との正式な取引記録は存在していなかった。
私は途方に暮れた。
仕方がないので動画チェックをする他なかった。
100本ほどの動画でルーチンのチェックを終えた時、私の頭脳は突然明快になり、全てに対する答えが見えたかのような感覚に囚われた。
明日、ジョンの元へ行ってみることにする。





×月□日

ジョン(ナニモン)が元傭兵であることを思い出した私は、サヤコについて彼に相談した。
サヤコが連れ去られた下りを話すとジョンは激しく怒り、

「一日待ってくれ。すぐに用意する」

と、サヤコの回収を確約してくれた。
一日待たなければならないので幼女の動画を150本見てこの日を終える。





×月▲日

ジョンは翌日、どこからか八人の傭兵仲間を私の作業場の前に集めていた。
オーガモン、サイクロモン、ミノタルモン、ボルケーモン、バリスタモン、ディノヒューモン、メタルエテモン、メラモンという面子で、オーガモンが「自分たちはエクスペンタブルズだ」と言っていたが、正直何のことかよく分からない。

私は工場への突入前に下準備をしておいた。
彼らの大工場を設計し、プログラムチェックをしているのも私なのだ。
予め朝から彼らの回線に潜入し、ありとあらゆる電力供給を切断した。
ついでに工場内のトイレの水も全て流れないようにしておいた。

夕刻、私はジョン達と共にメフィスト・エンジニアリング南部工場に潜入した。
当然ながらイビルモンをはじめとする工場の作業員は反撃してきた。
私は自分で設計した新型兵器を持ちこんだのだが、傭兵集団が強すぎるため出るまでもなかった。
その場にいるだけではやることがないため、爆発が起こる度ジャンプしたり一回転をしてどや顔(何かを成し遂げた際、自信があるように見せる顔のこと)を決めることにしたが、ジョン以外は私を怪訝な目で見つめていた。
雇い主に対してそうした表情をするのはあまり良くないのではないか。

傭兵集団の攻撃と汚水の臭いで混乱する工場の中、私はコンピュータに潜入し、サヤコの居場所を突き止めた。

サヤコは牢獄にて下着姿で捕えられていた。
八日振りに見たサヤコのあられもない姿に私の快感ルーチンは激しく機能し爆発寸前だった。
サヤコには変態と叫ばれたが、私は昆虫型デジモンではないので進化はしても変態はしない。

サヤコを開放してジョン達と共に工場を抜けだそうとすると、工場長であるスカルサタモンが牢獄の前に立ちはだかった。
スカルサタモンは激しく怒っていたので、私は自分のパートナーデジモンを引き取る正当性を主張した。
だがスカルサタモンはサヤコを上納することが大事だとか、出世が何だとかで全くこちらの話に応じる気がないようだった。
そして、彼は投降しないのであればサヤコの命は無いと言った。

仕方が無かったので、私は作業場から持ってきた工場自爆スイッチを見せ、サヤコを返すよう交渉することにした。
スカルサタモンは快く応じ、サヤコを我々に返してきた。
私は満足したので、工場自爆スイッチを押した。





廃墟となった工場を尻目に、私たちはジョンのバイクに乗って帰宅の途に就いた。
皆ボロボロで煤だらけだったが、感極まっているのか無言であった。
私には感情というものはないが、彼らの姿、そして全裸に近い状態でバイクに相乗りするサヤコを見て、思わずデジコアが熱くなるのを感じた。
そしてサヤコに話しかけた。



「サヤコ、私の興奮=快感ルーチンのメカニズムはほぼ解明された。君は私の快感ルーチンを最大限にまで機能させる素晴らしい女性だ。私は君のことをもっと感じたい。今度はこちらから願い出よう、私と一緒に冒険の旅へ出てくれないか?」





この直後、私はサヤコと傭兵集団に抹消寸前まで殴る蹴るの暴行を受けた。





- THE END -

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