バウンダリー
カーテンコールおよびあとがき
Curtain Call







・『バウンダリー』には多くのキャラクターが登場しますが、その多くはアニメシリーズのキャラクターであり、
名前のある人物でこの作品のために作られたキャラクターはひとりもいません。
(例外的に、佐倉一人とアルファモンはオリキャラですが、彼らもまた『時空を超えた戦い』で生まれたキャラクターです)
改めて、この途轍もなく特殊で歪な作品に出演してくださった彼らを、敬意を込めて紹介いたします。






●語り部


佐倉 一人(さくら かずと)
From:『時空を超えた戦い』

一人は「敗者」の象徴のキャラです。元々、彼は『時空を超えた戦い』の敵キャラクターとして生み出され、『時空〜』以外の物語に登場させるつもりはありませんでした。
アニメの主人公同様にデジモンをパートナーに持ち、友人達と共に冒険するがやがて挫折し、パートナーや大事な人を失う。
「自分は特別だと思ってたのに違った」という設定のキャラですが、これは言ってみれば小さな頃ゲームやアニメに慣れ親しみ、自分も選ばれし子供なんだ、と思い込んでいた多くのデジモンファン(僕も含め)を皮肉った存在でもあります。
『時空〜』における一人は悪の罠に嵌り、啓人らによって救われますが、この物語の一人は悪の罠には嵌らない代わりにデジタルワールドからの救いも得られず、所謂「ただの世間に不満を持つ大人」として成長した、恐らく現実にもたくさん存在するであろう自分と同世代の人間をイメージしてリデザインされました。

『時空〜』を書き終える少し前、この物語の骨子について検討していた時、最も重要だった問題のひとつが「主人公をどうするか」でした。
アニメシリーズのキャラクターの数十年後を一歩引いた視点で描くことを目的とした今回の物語では、特定のアニメキャラを主軸に置くことは出来ません。
アニメシリーズの誰かを置いてしまえば、その時点で「その英雄から見た世界」の話になってしまい、特別なキャラクターの話になってしまうからです。
特別なキャラクターではなく、アニメでは主役になり得ない存在を主役に……と考えている内に、一人が再び浮かび上がりました。

今回の一人のキャラクター造形にはいくつかの映画の登場人物が元になっていますが、おそらく一番近いのは『SRサイタマノラッパー』シリーズで奥野瑛太さん演じるMIGHTYです。
一人はマスコミの仕事に就いていながら世の中の動きには興味がなく、かつて繋がりのあったパートナーデジモンでさえどうでもいいと切り捨てて(いると自分で思い込んで)います。
劇中での発言の数々はシニカルぶっていて、自分では大人になっているつもりなのでしょうが、実際は非常に軽薄で幼稚です。
ましてや最終話にもなって「俺は関係ない」などと言い出す有様。
これは普通の物語の主人公としては落第レベルですが、この物語ではこの“負け犬”っぷりが重要でした。
世界なんて変えられない、変えられる力を渡されても実行力が無い、けど世の中にはなんか納得がいかない。
だから最後に逆ギレ的に何かを爆発させる。
とても綺麗なキャラクターとは言えませんが、ドロドロした何かをずっと抱えている彼なら、ヒーローとしてではなく「未熟な大人」として、この物語の語り部になってくれるのではないかと思いました。


雪(ゆき)
From:『おおかみこどもの雨と雪』

一人が「敗者」の象徴ならば、雪は「弱者」の象徴です。
元々、細田守監督の映画とデジモンは僕の中では同一ラインの存在であり、「好きなアニメ、影響を受けたアニメ」を考える時にはデジモンと細田映画は常に存在していました。
(当然ながら、細田監督のオリジナル作品は独立して成り立っている、というのを理解した上で言っています。さすがにこれを前提として話すほど錯乱してはいません)
以前読み切りで『時をかける少女』の早川さんにゲスト出演して頂いたことがあったので、『時空〜』が書き終わる前から『おおかみこどもの雨と雪』のキャラクターを次の連載で出演させることは考えていました。
ただ、その頃考えていたのはあくまでゲスト出演という形で、どこかの話で少しだけ出てくる程度のものでした。
やがて、物語を構想している内に「一人とは別に、物語に巻き込まれる無力な人間の視点が欲しい」と思うようになりました。
一人同様の理由で、そのキャラクターもアニメ側の主役であってはいけない。
とは言えこの作品用にオリキャラを創っても、十分なキャラ描写をする物語的スペースが無いので多分馴染まない。
「だったら雪を主役にすればいいじゃん、ゲストで出したいんだろ?」と悪魔のささやきが聞こえたので、僕はそれに忠実に従うことにしました。
活発な部分もありながら(特に成長してからは)繊細で華奢な彼女もまた、「特別でない語り部」として十分でした。

デジモンとは本来関係ない世界の住人である雪に出てもらうにあたり、執筆前からこの小説内でのルールを以下のように決めました。

1.物語中でおおかみには変身させない
2.おおかみこどもであることも物語では語らない
3.おおかみこどもであることを事件の発端にしない

映画をご覧になった方なら分かる通り、1は劇中に雪が決めた生き方に則るため。
また2も、本来「部外者」である他の登場人物達に彼女がそれを語ることは想像できないため、映画を見ていない人からは“この娘は何か特別な事情があると読み取れるが、それが何かは小説では読み取れない”表現に留めました。
3はもっと重要で、映画劇中における彼女にとっての最大の障害といえる「自らの出自」をこの小説内でトラブルの元として扱うのは、映画への冒涜に繋がりかねないからでした。

もちろん彼女はヒロインなので、重苦しい展開が続くこの物語に花を添える貴重な存在でもありました。
第四話冒頭での花との会話は実際の現場(映画劇中のモデルとなった、富山県上市町にある古民家)でポメラを使って書いていたのですが、こちらが考えていた展開よりも遥かに伸び伸びと、彼女達が勝手に動き出したことを覚えています。
小説を書いていない人には馬鹿馬鹿しく聞こえると思いますが、「あぁ、このキャラって本当に生きてるんだな」と思った瞬間でした。


アルファモン(ドルモン)
From:『時空を超えた戦い』

元・一人のパートナーであり、影からこの物語を操る存在でもあります。
一人同様に『時空を超えた戦い』からの続投ですが、こちらは性格に大幅な改変が加えられました。
これは物語上の必然と言うよりは、「『時空〜』の後何十年も裏次元みたいな所にいたらこうなってるんじゃない?」という妄想の産物です。
一人称は「僕」から「私」になり、「パートナーのことを考えて」を連呼する割にはまるでパートナーの心情を理解しようとしない。
彼も一人同様、主役のパートナーとしてはやや欠落した部分のある存在ですが、一人と違うのは「アニメを見ている人ですら、とてもこんなパートナーを身近に思えない」という点です。
アニメシリーズのディレクター等を務めた角銅博之さんはパートナーデジモンのことを「もうひとりの自分、人間の不安定な魂が安定を得るために形を得た存在」と語っていました。
しかし一人にとってパートナーデジモンとは自分とは関係ない、非現実的な存在です。
結果として一人の目の前に現れた元・パートナーは物凄い力を持つ、神のような視点を持つ存在になっていました。
彼にとって一番遠い存在となったアルファモンをパートナーとして取り戻す、というか、彼の課す難題を乗り越えることが、一人にとっての最大の試練となりました。

アルファモンのモデルはアメコミ『キングダム・カム』における精霊スペクターです。
神のような視点を持ち、人間性が失われているキャラクターであり、特に何度も夢の中に登場して雪と会話する姿は、『キングダム・カム』に登場する牧師ノーマン・マッケイに語りかけるスペクターに強く影響を受けています。
ただ、これは書いている途中までは意識していなかったのですが、相手の考え方を一切無視して“パートナーのために”動くアルファモンは、今回この小説のイラストを描いてくださったENNEさんの『Egg and I』におけるメタルガルルモン(というか、ENNEさんの作品のデジモン全般)の狂気みたいなものも入っているのではないかと、勝手に自己分析をしています。

物語の最後の最後で、アルファモンは『時空〜』の頃の姿を一人の前に現します。
個人的には、やっぱりこのドルモンの方が好きです。



●日本政府関係者


本宮 大輔(もとみや だいすけ)&ブイモン
From:『デジモンアドベンチャー02』

日本有数の大企業モトミヤホールディングスCEOと、そのマスコットキャラクターを演じる彼のパートナー。
中年になった大輔の造形は、数多くいる選ばれし子供・デジモンテイマーの中でも最も早く、明確に決まりました。
というのも大輔がビジネス的に成功する姿は『02』最終話でも描かれていましたし、そこから更にアイディアを発展させれば面白くなるのでは、ということ自体はこの小説を書くずっと前から考えており、今回は「ようやくこの大輔を出せた」という気分で書いていました。

読まれた方の多くが気づかれているのではないかと思いますが、企業のトップであり英雄でもある、という立ち位置は『アイアンマン』のトニー・スタークがモデルになっています。
(トニー・スタークと言えば映画版のロバート・ダウニー・Jr.が演じている姿が一番連想されますが、アメコミ『シビル・ウォー』のトニー・スタークの方がこの大輔には近いかもしれません)
社会の暗黒面に両足を突っ込みながらも、少年時代の明るさを忘れず、今の枠組みで達成できる理想郷を目指す……という、この物語の大輔は、日本政府側の英雄達のリーダーに相応しい姿になりました。
結果として物語中、選ばれし子供の中でも一番出番が多くなったのも、もがき、悩む英雄像として彼が劇中一番前に立っていたからです。
本編最後の大輔の台詞は、この物語で最も大事な台詞のひとつです。


高石 タケル(たかいし たける)&パタモン
From:『デジモンアドベンチャー02』

正史の設定を改変し、内閣情報調査室所属という設定になりました。
第一話から第三話までにかけて、雪を日常からデジモンの世界(つまり、この物語の世界)に連れていく役割のキャラクターです。
彼が『02』で見せた、普段の爽やかな面と黒い面という二面性は「単なる正義の味方ではない」英雄像を描くにあたり大変重要でした。
第二話Side:Whiteでの雪との会話において、タケルのこの性格と雪のやや排他的な部分が、二人の間に絶妙な距離感というか緊張感を生みました。
基本、雪サイドの話は(タケルに限らず、全ての関係者に対して)第三話終盤までずっとこの微妙な距離感が続きます。
「正義の味方の筈なのに、一般市民とは距離がある」という空間の説得力を出すことが一番出来るのが『02』出自の黒タケルでした。

この物語におけるホーリーエンジェモンはとにかく強いです。
元々アニメでも完全体の範疇を超えた力を持っていましたが、そのままこの年齢になるまで活躍を続けていたのでダークナイトモンを相手にワンサイドゲームを展開できる程になっています。
タケルの性格もあって、政府側の英雄としての活躍を見せることを非常に頑張ってくれました。


一乗寺 賢(いちじょうじ けん)&ワームモン
From:『デジモンアドベンチャー02』

ほぼ正史通りに、警視庁の刑事として登場させました。
大輔達との会話を通じて「物語全体ではどういう事態が進行しているのか」を説明する仕事がありましたが、そんなことよりも大輔との世間話の方が長くなってしまい、第二話の初登場時の会話はかなり削ってしまいました。
当初は全く意図していなかったのですが、『02』で微妙な関係にあったタケルとタッグを組むことになったのは何かの因果なのかもしれません。
第三話でのタケルを信頼しきった台詞は「この状況なら絶対に彼に言わせたい」と思って加えました。


泉 光子郎(いずみ こうしろう)&アトラーカブテリモン
井ノ上 京(いのうえ みやこ)&シュリモン
火田 伊織(ひだ いおり)&ディグモン
From:『デジモンアドベンチャー』(光子郎・アトラーカブテリモン)
『デジモンアドベンチャー02』(京・シュリモン・伊織・ディグモン)

恐らく本職では全員正史通りの仕事をしているのでしょうが、今回は終盤戦、大輔の計らいでラブマシーン防衛のために登場します。
実は今回の物語は無印のキャラクターにそれほど出番がないので、光子郎をどこで活躍させるかはずっと考えておりました。
京・伊織ペア含め、オールスターの戦いの中にそのまま投げ込んでしまうとどうしても埋もれてしまうため、この形での活躍をしてもらうことになりました。
結果的に面白いカードを組むことが出来たのではないかと思います。


山木 満雄(やまき みつお)
From:『デジモンテイマーズ』

衆議院議員として登場して頂きました。
年齢的には60歳前後という所でしょうか。
元々山木さんには総理大臣役での出演も考えていたのですが、内閣が絡むエピソードが無く、当初はお蔵入りに。
(その後安全保障会議のエピソードが生まれたのですが、結局この方向での山木さん登場は無しになりました)
わずかな登場シーンですが、スピルバーグ監督版『リンカーン』をモチーフにした台詞を言って頂きました。



●DATS


トーマ・H・ノルシュタイン&ガオモン
From:『デジモンセイバーズ』

DATS日本支部隊長へと昇進したトーマと、その忠実なパートナー。
30代後半という設定ながら、意外とアニメと変わらないキャラクターとなりました。
物語冒頭、「アニメの主役級同士が戦っている」という、ともすれば単なる「夢の対決」にしか見えない戦いを渋く締めてくれたのは、彼らのキャラクター性によるところが強いと思います。
厳しさ、冷たさが必要な役割を見事にこなしてくれました。


野口 イクト(のぐち いくと)&ファルコモン
藤枝 淑乃(ふじえだ よしの)&ララモン
From:『デジモンセイバーズ』

DATSが解散していないという設定のこの小説で、日本支部所属隊員として元々の設定に近い形で登場することになった二組。
もと野生児だったイクトですが、大人になりDATSの隊員として活動していることで、『セイバーズ』の時よりもかなり落ち着いた印象です。
一方の淑乃は年齢的には40を超えていることになるのですが、内面はほとんど変わっていないように思われます。

物語上、DATSは政府側の手駒という役割にならざるを得ません。
そんな中、第二話冒頭の彼らの様子は、DATSのメンバーを単なる操り人形ではないことを示すために重要な場面でした。
元々の性格とはそれほど変わっておらず、比較的目線が読む側にも近いと思われる彼らにこそ適任の場面だったと思います。



●クロスハート


神原 拓也(かんばら たくや)=アグニモン
From:『デジモンフロンティア』

クロスハート所属の元・選ばれし子供。
アニメシリーズ主役の中では比較的出番が少なかったのはやや申し訳なく思っています。
ただ、冒頭の戦闘場面はミラージュガオガモンと合わせてとても面白いカードが組めたと思っています。
彼がクロスハート幹部になっていないのは、そういう仕事は輝二に任せているからでしょうか。


織本 泉(おりもと いずみ)=シューツモン
From:『デジモンフロンティア』

クロスハート所属、元・選ばれし子供。
拓也とコンビでの出演ですが、こちらは第一話冒頭だけの出演となってしまいました。
性格等はほとんど変わっていませんが、それだけに拓也ともう少しコントをやれたのではないかとも思います。
またいずれ機会があれば彼女にももっとスポットを当ててみたいです。


天野 ネネ(あまの ねね)&スパロウモン&メルヴァモン
From:『デジモンクロスウォーズ』

クロスハート東京支部。
当初はそこまで考えていなかったのですが、結果的に物語前半で大きな役目を果たすことになりました。
多分、彼女の元々のキャラクターがこの物語向きだったのではないかと思います。
第一話Side:Black後半での登場場面は『トゥモロー・ワールド』のジュリアン・ムーア出演シーンを何となくイメージして書きました。
彼女も30代後半に差し掛かっているはずなのですが、その年齢で色仕掛け的な描写をしても違和感が出ないのは多分彼女だけでしょう。
元々お気に入りでしたが、書いている内に更に好きになったキャラクターのひとりです。


塩田 博和(しおた ひろかず)&ガードロモン
北川健太(きたがわ けんた)&マリンエンジェモン
From:『デジモンテイマーズ』

クロスハート東京支部で天野ネネと行動を共にする二組。
かなりシリアス寄りのキャラクター造形になりました。
彼らの場面はテロリスト集団としてのクロスハートの初登場のシークエンスだったのでこの形になりましたが、多分普段は『テイマーズ』の頃同様に馬鹿なこともやっているのではないかと思います。


天野 ユウ(あまの ゆう)&ツワーモン
From:『デジモンクロスウォーズ』

クロスハート所属。
第一話で初めて雪に接触するペアですが、クロスハートにおける光子郎的な役割に置けるキャラがすぐには決まらず、彼がこのポジションに就くまでは少々時間がかかりました。
(最初はリョウマをこのポジションにしていました)
結果的に姉弟共々、物語における重要な役割を担うことになりました。


明石 タギル(あかし たぎる)&アレスタードラモン
From:『デジモンクロスウォーズ〜時を駆ける少年ハンターたち〜』

クロスハート所属。
若さもあってか、アニメシリーズの主役の中では最もアニメと変わらない性格になりました。
構成上、この小説のバトルはどれも非常に少ない文字数で展開せざるを得なかったのですが、第一話のアレスタードラモンとキングカズマの戦いは様々な動きをさせることが出来て、書いていて非常に楽しかったです。
一方で戦いの場面以外で彼らの描写があまり出来なかったのは少々残念ですが、リョウマ組と最終話で協力させることが出来たのは個人的には気に入っています。


工藤 タイキ(くどう たいき)&シャウトモン
From:『デジモンクロスウォーズ』

クロスハート・リーダー。
軍団のジェネラルを努めている主人公であるという構造上、個人的には彼は、どうしても特別な才能を持った人と見てしまっていました。
ただ、この「特別な才能を持つ人間」という部分はこの物語における反体制チームのリーダーに必須で、彼の存在は絶対に挫折しない反体制側のリーダーとして、英雄同士の対立構造を強化してくれました。
イメージとしては『シビル・ウォー』のキャプテン・アメリカです。
おそらく、例えクロスハートという看板が無くとも、勢力のリーダーとしての役割には就いていたのではないかと思います。


李 健良(りー じぇんりゃ)&テリアモン
牧野 留姫(まきの るき)&レナモン
源 輝二(みなもと こうじ)=ヴォルフモン
蒼沼 キリハ(あおぬま きりは)&グレイモン
From:『デジモンテイマーズ』(健良・テリアモン・留姫・レナモン)
『デジモンフロンティア』(輝二)
『デジモンクロスウォーズ』(キリハ・グレイモン)

クロスハート幹部勢。
この物語におけるクロスハートは『テイマーズ』『フロンティア』『クロスウォーズ』の混合チームで、それぞれの物語における精神的リーダー(ここに、タイキ以外の主人公は入りません)が幹部を務めています。
この中でも特に留姫は、第二話における啓人との会話という特別な役目がありました。
昔と変わらぬ関係を育んでいるチームもあれば、ほぼ断絶し微妙な関係になっているチームもあるということを示すのに、彼女の短気な部分は一役買っていたのではないかと思います。


最上 リョウマ(もがみ りょうま)&アスタモン
戸張 レン(とばり れん)&ヤシャモン
洲崎 アイル(すざき あいる)&チョ・ハッカイモン
From:『デジモンクロスウォーズ〜時を駆ける少年ハンターたち〜』

クロスハート所属。
当初、彼らを物語に出すつもりはありませんでしたが、『クロスウォーズ』正史では少々可哀想なことになってしまったリョウマに、この物語なりの救いというか役目を与えてあげたいという気持ちもありました。
結果的にアスタモンのストーリーは台詞一言で終わらせ、最終話で滑り込み出演をさせることになりました。
(スカッとさせるためのストーリーで湿っぽいバックグラウンドを長く語るのは嫌いなので……)
洲崎アイルと井ノ上京を戦わせることが出来て良かったです。
実際に会話したら意外と仲良くなれると思うんですよね、この二人。



●デジモン解放戦線(DLF)


バグラモン
From:『デジモンクロスウォーズ』

DLF主宰の魔王型デジモン。
悪のカリスマであるバグラモン様には、今回の「悪のドリームチーム」も仕切って頂くことにしました。
「悪役側の長であるバグラモンが実は自分の部下達を試しており、最初から啓人達と組んでいた」という設定はかなり早い段階で思いつき、また『時を駆ける少年ハンターたち』とも近い設定に出来るため「これは面白いぞ」とひとりでニヤニヤしていました。
こういう、善と悪の線引きがものすごく曖昧になる瞬間はどんな作品でも大好きです。
バグラモンのラストシーンは第四話を書いている頃に思いつきました。
デジモンの未来についての物語であるが故、デジモン側の代表がそれまで立つことの出来なかった場に立つという描写が必要だと思ったためです。
設定からして複雑な悪役である彼が最終的にこの形に落ち着くのは意外とアリなのではないかと勝手に思っています。


ピエモン
アルケニモン
マミーモン
リリスモン
From:『デジモンアドベンチャー』(ピエモン)
『デジモンアドベンチャー02』(アルケニモン・マミーモン)
『デジモンクロスウォーズ』(リリスモン)

DLF幹部。
悪のドリームチームでありながら、悪役らしい活躍が出来なかった少々可哀想な方々です。
DLFは出来るだけバランス良くなるように各シリーズから悪役を選別(『セイバーズ』だけはこのチームの幹部となり得る適当なデジモンがおらず除外しました)して設定しましたが、比較的完璧主義であるピエモンに夫婦漫才のアルケニモン&マミーモン、自由気ままな色欲お姉さんのリリスモンと、「それにしてもよく既存キャラでこんなにバランス良くなるな」という面子になってしまいました。
クロスハートや政府側のキャラ配置にかなり苦心したことと比べるとこの辺りは対照的です。


インプモン
From:『デジモンテイマーズ』

DLFの幹部。
『時空〜』書いてるとインプモンはすっかり善玉に見えてきますが、今回は原点回帰(?)のダーティー(っぽく初期は見える)設定になりました。
元々が人気キャラのため、特に進化後のベルゼブモンは特別なことをしなくてもキマッた感じになってしまい、彼については動作などを考えながら書いた覚えが殆どありません。
もし物語の尺が倍くらいあれば、彼と『クロスウォーズ』のベルゼブモンの邂逅場面なんかがあっても良かったのでは、と思います。


ダークナイトモン
グロットモン
From:『デジモンクロスウォーズ』(ダークナイトモン)
『デジモンフロンティア』(グロットモン)

DLF幹部と現場チーム。
ただの貴族が悪役として存分に活躍する場面を書きたい、という気持ちから、物語の中ボス的な役割になりました。
第二話終盤の「コイツ絶対本心で言ってない」オーラが滲み出ている台詞回しは我ながらお気に入りです。
グロットモンの登場が決まったのは第二話執筆中、つまりほとんど書くことと同時進行で決まりました。
ダークナイトモンの副官的な役割でありながら媚びへつらう感じでないデジモン、ということで図鑑をめくりながら決めたのを覚えています。
まさかグロットモンを自分の小説に出すなんて考えてもいませんでしたが、存外中々のハマり役だったのではないかと思います。



●ワイルドカード


松田 啓人(まつだ たかと)&ギルモン
From:『デジモンテイマーズ』

執筆前に子供達が中年になった姿を考えている時、「ひとりくらい落ちぶれた奴も必要だよな」と考えており、その最有力が啓人でした。
結局ボツになりましたが、彼は当初浮浪者になっている、という嫌な設定もあったくらいです。
実は一人が主人公に決まる前、この物語の主人公は啓人になるという案がありました。
徹底的に落ちぶれ、社会的に最底辺の地位にいるという設定ならば、「特別なヒーロー」ではない「敗者」の視点を啓人を通じて用意することが出来ると思ったからです。

結果的に啓人は裏でバグラモンと結託している流れ者という設定になりましたが、これは『キングダム・カム』における年老いたバットマンが元です。
性格もかなり変化したというか、嫌な落ち着き方をした青年になってしまいました。
第二話の留姫と啓人(と、相変わらずのギルモン)の会話と『テイマーズ』の頃の二人の会話を比べて頂き、その違和感を味わって頂ければと思います。


八神 太一(やがみ たいち)
石田 ヤマト(いしだ やまと)
オメガモン
From:『デジモンアドベンチャー』

オメガモンがヒーローで、太一やヤマトが世界一有名な選ばれし子供であることは現実でもこの物語でも同じです。
例え二次創作であっても、彼らのことを「どこにでもいる一般人とそのパートナー」として描くことはもう不可能と言って良いと思います。
彼らにはその「超越的な役割」を敢えてなぞった存在としてこの物語に出演して頂きました。
(一度もオメガモンが劇中で退化しないのもこの役割のためです)
彼らはスーパーマンであり、『ウォッチメン』のDr.マンハッタンのような存在でもあります。
本人らが望む望まざるに関わらず超人としての存在になってしまった彼らが何を考えているのかは物語中ほとんど描写していませんが、ラストシーンになってようやく「人間らしい」太一とヤマトを描けたと思います。


大門 大(だいもん まさる)&シャイングレイモン
From:『デジモンセイバーズ』

よくオメガモンと対峙するデジモンには同じロイヤルナイツであるデュークモンが描かれますが、そうではなく、「オメガモンと戦って一番負けない気がする主人公デジモンは誰だろう」と考えていました。
結果、アニメシリーズ最強の主人公である大兄貴のパートナー・シャイングレイモンしかないという答えに行き着きました。
スーパーマンのような立ち位置であるオメガモンに対し、この物語の兄貴&シャイングレイモンは『キングダム・カム』におけるキャプテン・マーベルのような役割となっています。
『無印』『02』『セイバーズ』が体制側、『テイマーズ』『フロンティア』『クロスウォーズ』が反体制側と作品ごとに所属を分けたこの物語で、彼らだけが例外的にこのルールを破っています。
規格外なキャラクターである兄貴とそのパートナーだからこそ、彼ららしい立ち位置を用意する方が面白くなるのではないか、と考えてのこの配置でした。


ラブマシーン
From:『サマーウォーズ』

モトミヤ社の開発した自立思考プログラム。
設定は別物になりましたが、キャラクター性自体はほぼ変わりません。
最終話における彼の行動は『2010年』のHAL9000をモデルにしています。
自己判断であの決断を下す、ということが、悪役としてのラブマシーンのイメージにちょっとしたカウンターになっていればいいな、と思っています。



●市民


藤井 草平(ふじい そうへい)
From:『おおかみこどもの雨と雪』

雪の同級生。
映画劇中での男前っぷりはこの物語でも出来る限り踏襲しようと思いました。
第一話とエピローグにのみ登場していますが、これはそのまま、雪が「自分の世界」から物語をスタートさせ、そのまま「自分の世界」へ戻ったことを表しています。
映画劇中の事件があった後の彼らにとって、エピローグの二人の最後の行動は特別な意味があることを読み取って頂ければと思います。


池沢 佳主馬(いけざわ かずま)=キングカズマ
From:『サマーウォーズ』

物語の構成上、実際の姿(多分彼のことですからイケメンの青年になっていることでしょう)では登場せず、キングカズマとして登場することになりました。
第一話のキングカズマとアレスタードラモンのバトルは、そのままクロスオーバー作品としてのエキシビジョンマッチのような場面となりました。
映画ではラブマシーンと戦った彼が、第五話でラブマシーンを守るために戦うことになったのは面白い設定だったなと勝手に思っています。


雨(あめ)
From:『おおかみこどもの雨と雪』

山の主であり、雪の弟。
前述した雪の執筆上のルールは彼も則っているため、この作品単体では「彼がどんな存在なのか」はほとんど分からないようになっています。
一方で、彼が第三話で「狼」として登場することを強調するため、第一話〜第三話の彼の登場シーンまでは「狼」という言葉を文中一度も使用していません(僕のミスがない限り)。
お陰で第三話のヴォルフモン登場場面は書き辛いことこの上なかったです。
映画の中でははっきりと別れを言うことが出来なかった姉弟ですが、この小説ではその部分を補完できれば良いなと考え、あのエピローグが生まれました。


花(はな)
From:『おおかみこどもの雨と雪』

雨と雪の母親。
映画の十三年間で母親としての成長を遂げた花に、この物語で新たな壁を設けたり、冒険をさせたりしようとは思いませんでした。
『デジモンアドベンチャー』や『デジモンテイマーズ』では特に顕著ですが、デジモンのアニメシリーズは親と子の関係を通じてキャラクターが成長する場面が多く、しかもそれらは例外なく名場面です。
このしきたり(?)に添い、第四話で彼女と雪の会話を入れることは必須だと思いました。
実際、雪が自発的に何かを決定するのはあの場面が初めてなのです。


石田 空(いしだ そら)
From:『デジモンアドベンチャー』

旧姓・武之内。
戦闘と関係ない場面のみで登場する元・選ばれし子供は彼女だけです。
前述の通り、第三台場で彼女が太一やヤマトと再会する場面は、彼らが英雄ではなく「八神太一」「石田ヤマト」に戻る瞬間でもあります。
ちなみに彼女が太一とヤマトを見送るシーンは『時をかける少女』の真琴と千昭が別れる場面のオマージュのつもりで書きました。


『白梅二椿菊図』(はくばいにつばききくず)
From:『時をかける少女』

他のクロスオーバー作品と違い、『時をかける少女』のキャラクターはこの物語には登場しません。
代わりに、映画で重要な役割を持つ絵画『白梅二椿菊図』が、この小説でもまた重要な役割を持ったアイテムとして登場します。
この絵画の役割はマクガフィンと言ってしまえばそれまでなのですが、『時をかける少女』をご覧になった方ならご存じの通り、劇中でこの絵画が描かれたのは「何百年も前の歴史的な大戦争が行われた頃」「世界が終わろうとしていた時」と説明されています。
「アルマゲドンが起ころうとしている近未来」の物語のキーアイテムとして、これはピッタリだと感じました。

ちなみにこの絵画が収蔵されていたのは国立博物館で、これは『時をかける少女』の設定と同じです。
そして映画の中で真琴は千昭に「あの絵が千昭の時代まで残るように頑張ってみる」と話しています。
この辺りから、この絵画が盗難に遭うまでに起きたこと、絵画の向かった時代のことなど色々想像して頂ければ……それはとっても、嬉しいことだなって(曖昧)。


及川 悠紀夫(おいかわ ゆきお)
From:『デジモンアドベンチャー02』

エピローグをどう閉めるか、つまりこの物語全体をどう閉めるか。
ヒーローがあまりにも多く登場するこの物語では、誰が閉めに相応しいかは逆に難しい問題でした。
及川さんの登場は、正史を無視しているこの物語だからこそ出来る最大の隠し玉でした。
この物語ではかつての子供達が大人になって登場しますが、彼らよりも更に上の世代をも物語に関わらせる、というのは絶対にやっておきたいことでした。
最終話で一人と雪は「自分達は無関係じゃない」という結論に行き着きますが、デジモンシリーズ全体で「無関係でないことのありがたさ」を一番分かっているのは、及川さんなのではないでしょうか。


←backindexあとがき→
inserted by FC2 system