時空を超えた戦い - Evo.4
広がる波紋







「…マジかよ…」

寝ぼけ眼で朝食を食べながら、テレビ画面に流れるニュースを見た博和は絶句した。
朝のニュース番組「目冷ましテレビ」の画面には、巨大な人間が代々木・明治神宮の辺りを悠々と通過していく様が流れている。

「…ご覧の通り、正体不明の巨大生物は本日午前7時ごろ突然出現し、周辺の建造物に多大な被害を加えながら移動中です!」
「付近の住民には既に避難命令が出されており、奇跡的に死者は出ておりませんが、軽い怪我で3人が病院へ運ばれ…」
「現在、南新宿及び代々木全域は封鎖されており、我々もこれ以上は近づけない状況で…」

テレビの画面には捉えられた巨人の映像が繰り返し放送され、取材陣が警察によって封鎖された地域の前でごった返していた。
南新宿と言えばそう遠くはない。
僅か数ヶ月前にデ・リーパーの騒ぎで多くの人間が避難したと言うのに、またしてもそんな事態へと発展してしまうのであろうか。

「あぁッ!ヒロカズ!」
「な、なんだよガードロモン!」

博和と一緒に居間でニュースを見ていたガードロモンが叫ぶ。
そして映し出された巨人の映像の左端を指差した。

「あっ…」

博和も驚く。
録画された場面の端に、確かに啓人やギルモンが映っていた。
非常に小さく、だが。
彼らもこの事件に関わってるのだろうか?
あまり考えたくは無かったが、普段からデジモンに接している自分たちだ。
今回の事件にもまたしても繋がりがある、と思わず考えた。

「ヒロカズ、どうする?」

ガードロモンが聞く。
博和の返事は決まっていた。

「…もちろん。行くに決まってんだろ」

眠気もぶっ飛んだ博和がガードロモンに言う。
猛烈な勢いで朝食を済ませ、博和とガードロモンは外に出る。

「ごめん!行ってきまーす!」
「行ってきまーす!」
「あっ、ちょっと!」

あっという間に外に出て行く息子を彼の母親は止めようとしたが、すぐに彼らは出て行ってしまった。
一瞬追いかけようとしたが、つい最近起こった出来事を考えると、彼らを止める必要もないと考え直した。
何と言う放任主義…いやいや。

「…いいのか?」

居間で同じように朝食を取っていた父親が聞く。

「別に。あんだけ頼もしい相棒がいるんだし、大丈夫でしょ」
「…」

父親はそれ以上のことは聞かなかった。



「…うわ〜…」

一方、自分の部屋で同様の反応をする、タカトと博和の友人、健太。
彼も画面にこっそりと映るタカトたちを発見していた。
彼のパートナー、マリンエンジェモンも横に並んで画面を見つめている。

「ぷーぴー」

おそらくリアルワールドでは博和にしか理解出来ないマリンエンジェモン語で、健太に聞く。

「…うん。そうだね…。行かないと」

健太も博和と同様、家を出て走り出した。



「…よし!やっと終わった〜」

樹莉の家庭は博和や健太ほど、朝はのんびりしている訳ではない。
前日に彼女の家の小料理屋では飲み会が開かれており、彼女は朝からその片付けに追われていたのだった。
30分程前に、用事で彼女の親は家を出ていたので、1人で彼女は手伝いを済ませていた。

夏の日差しが窓から射してくるのを感じながら、2階へと上がる樹莉。
自分の部屋のドアを開けると、机の上に飾られている、一年前のあの冒険の中で撮った写真を眺めた。

「おはよ、レオモン」

旅が終わり、明るさを取り戻してから、彼女は毎朝、写真に写るかつてのパートナーにあいさつをするようになっていた。
それは特別な意味ではなく、自らの中にそのパートナーが生き続けているから。
樹莉にとっては至極自然なことであった。


と、その時、窓に外側から何かが激突する音。
そして、「開けろ!開けてくれよ!」という、どこかで聞いたことのある声。
窓を見た樹莉は思わず、ぎょっ、となった。
全身を木の葉やら木の枝やらで傷つけた紫色の小悪魔と、白い妖精のような生き物が、窓に顔をべったりと貼り付いていた。
よっぽど急いでやって来たのだろうか。

「ど、どうしたの!?」

大急ぎで窓を開ける樹莉。
クルモンは飛びながら部屋に入ってきたが、同時にインプモンは頭から落下した。

「イデェッ!」

頭を抑えながら唸るインプモン。
「大丈夫?」と近寄る樹莉だったが、インプモンは彼女を振り払って叫ぶ。

「おい!何こんなとこでぼけっとしてんだよ!」
「な、ぼけっとしてるって…。失礼ねー、こっちは朝から手伝いで大変だったんだよ!」
「ジュリ、テレビ見なかったんで〜すか?」
「?ニュースって?何か特別なことやってるの?」
「あーくそ!説明よりも直接見たほうがいい!」
「えっ!?ちょ、ちょっと!」

インプモンは立ち上がると樹莉の手を引いて猛スピードで1階へ駆け下りた。
クルモンもインプモンについて降りていく。


「これだ、これ!」

小料理屋のテレビをつけると、インプモンが飛び跳ねながら画面を指差した。

「!な、何これ?」

ポカンとしながら樹莉が聞く。

「見たまんまだよ!あ、ほら左下!」
「あっ」

啓人や健良、それに赤い恐竜のような姿が映っている。

「うわぁ、すごーい。啓人君のそっくりさん」
「本人だよ!」

こんなタイミングで天然を発揮する樹莉に、怒号のごとくツッコみをいれるインプモン。

「タカトたちがあそこにいるんでくる!ジュリも行かないんでくる?」

クルモンが樹莉に言う。

「うん、行きたいけど…今はあそこ、騒がしくなってるみたいだし…啓人君たちに会えるかなぁ…」

樹莉が不安そうに言う。
確かに画面の中の人間たちは相当混乱している。
だが、樹莉の言葉を前半しか聞いていなかったインプモンが叫ぶ。

「よっし、決まりだ!いくぞクルモン!」
「わっ、わっ!待ってよっ!」

再び樹莉の手を引っ張りながらインプモンが外に出て走り始める。

「ま、待ってくる〜!」

クルモンも大急ぎで家を出る。
が、同時にインプモンがピタリと止まり、樹莉に聞く。

「…で、どっから行けばいいんだ、あそこには?」


情報省ネットワーク管理局

付近の街と同様、ここもまた、早朝から騒然としていた。
今朝、巨人が出現した時、ネットワーク監視システム──ヒュプノスに、一瞬だけ反応があったのだ。
これはこの世界と相対しているもう一つの世界、デジタルワールドと関係している。
若くしてここの室長を務める山木 満雄は、そう確信していた。
となれば、かつて共に戦ったあの子供たちも?
行動力のある子供たちだ。今行動に出ない訳がない。
これも山木には確信があった。
だが今回は、我々が遅れをとるわけにはいかない。

「山木室長、防衛庁長官からのお電話です」

オペレータの麗花が言う。

「…わかった」

既に朝から何度も、防衛庁や文部科学省、そして内閣からの電話が入っている。
全て決まって、巨大生物と前に起こった事件との関連についてである。
山木は決まって「根拠は無く、まだ何も解っていません」という回答をするのだが、その数分後にはまた別の所から電話が来る。
さすがの山木もイライラしており、何時ものクセであるジッポーの蓋を開け閉めはさらに好調であった。
上司であると同時に恋人である山木の様子に、麗花はため息をつく。

だが、その瞬間にヒュプノスに再び反応があったのを彼女は見逃していた。



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