時空を超えた戦い - Evo.10
終結





「どうした、止まったままで」

ベルゼブモンが銃口を向けたまま言う。

「…ふん。下らねぇ邪魔が入ったもんだ」
「そうか、こっちとしてはてめぇの方がよっぽど邪魔だけどな」

お互い、今にも攻撃を開始しそうな雰囲気だ。
と、ベルゼブモンの隣に白い妖精型デジモンが飛んでくる。

「くるーっ!ベルゼブモン、だめだって言ったじゃないでーすかー!」
「ばっ…付いて来るなって言っただろうが!」
「そんなこと言ってるばあいでーすかー!だから、進化しないで来るべきだったくる!」
「それこそ言ってる場合かよ!大体、メガログラウモンたちはとうに人間に見られてるんだ!」

どうしようもない口論が再び始まった。

「…助けに来たと思ったら、何やってんだ…?」

下で博和が呟いた。


「大体な、急いで来なけりゃ俺は…」

一瞬、言葉が止まる。
次の瞬間、ベルゼブモンが立っていたビルの屋上が爆発した。
デスモンが必殺技を放ったのだ。

「…コントに付き合ってる暇は無い」
「全くですね」

デスモンの言葉にスカルサタモンが同意する。
…当然と言えば当然なのだが。

「…危ねぇよ、全く…」
「…」

デスモンの後ろ側から、先ほどと同じ声が聞こえた。
振り向くとそこにはクルモンを片手に抱えたベルゼブモンがいた。

「…く、くるぅ…あぶなかったでくる…」
「だから、来るなって言ったんだ」
「そんなこと言ったって、しかたないじゃないでーすか!」
「うるせぇ!危ねぇんだから、さっさとジュリの所にでも行け!」

ぽい、と手からクルモンを振り払う。

「…くるー…やっぱり、ベルゼブモンふきげんでくる」

クルモンは頬を膨らませながら、樹莉たちの方へ飛んでいく。
ベルゼブモンは片目でクルモンが安全な場所へ向かったのを確認すると、デスモンの方を見る。
左腕には彼の武器の一つであるショットガン、ベレンヘーナがあった。

「さぁ、始めようじゃねぇか」
「…まぁ、2、3分なら相手してやるよ」

次の瞬間、ほぼ同時に二体の技が発動した。
デスモンのデスアローと、ベレンヘーナから放たれた弾丸・ダブルインパクトが、彼らの間で激突・爆発した。
爆発による粉塵が舞い上がる中、二体の魔王は風を裂きながら闇夜を高速で飛行し、何度も激突する。
デスモンの腕がベルゼブモンを殴りつけようとしたが、緑の眼を持つ魔王はそれを軽く受け止める。

「ハッ!この程度か!」
「ふん…」

突然、デスモンが後方へ離れる。
ベルゼブモンはその行動に疑問を持つ前に、一体のスカルサタモンが自分の後ろで杖を振りかざしていることに気づいた。
スカルサタモンの顔はまるで、既に彼を仕留めたかのように喜びに満ちている。

「…くっ」
「死ねぇ!スカルハンマー!!」

杖を思い切り振り下ろすスカルサタモン。
だが、直撃する寸前にベルゼブモンは反転し、杖を右腕の陽電子砲で受け止めた。

「なッ…」
「邪魔してんじゃねぇよ!」

ダークネスクロー!!

ベルゼブモンの左腕がスカルサタモンを貫いた。
悲鳴を上げる間も無く、消滅するスカルサタモン。
だが、ベルゼブモンが自分の部下に気を取られている隙に、デスモンは狙いを正確に定めていた。
ベルゼブモンは直後に気づいたものの、体が反応についていけなかった。

「!マズ…」
「デスアロー!!」

その正確な一撃がベルゼブモンに直撃し、彼をその威力で付近のオフィスの壁へ叩きつけた。
尚も威力は収まらず、デスアローはベルゼブモンごと、そのまま壁を突き破る。
ビルの一部が威力で崩れ、ベルゼブモンを飲み込んだ。



一方、成田率いる陸自の作戦室では、攻撃隊の再編が整いつつあった。

「オペレータ、遮断シールドを解除してくれ」
『了解』

山木が指示すると、それまでネットワーク通信を行えなかった電子機器が復旧した。
山木は一先ず成田にその事を告げようとしたが。

『───』
「…?」

まるで、誰かが呼んでいるような。
声が聞こえたような、そんな感覚がした。
山木だけではなく、その場にいた全員がその「声」を感じたようで、辺りを見回す。

「山木、今のは…」
「解らん…だが…」

山木は窓際に行くと、まだ閉じる様子の無いデジタル空間を見た。

「まさか…」



『だあぁぁっ!』
『アンギャアァァァ!!』

二つの戦いが行われる品川の様子を、相変わらず映し続ける画面。
それを見続ける、影。
「彼」は再び口を開いたが、その声はいささか不機嫌なようだった。

「小細工とは…この世界のニンゲンは、儂(わし)が考えるよりも遥かに愚かであったようだな」

先程の、リアルワールドとデジタルワールドを繋ぐ空間の遮断。
「彼」にとってそれは大した問題では無かったのだけれど、思ったほど事態が面白く進んでないことで、「彼」は退屈になり始めていた。

「『N-4』にも邪魔が入ったのは予想外だった…最早この余興も終わらせる他無いようだな」

すると、「彼」はそれまで座していた椅子から立ち上がり、巨大ダイスケの写る画面へ眼光を向ける。

「ニンゲンども、小細工をしようが無意味だ…儂の力は、貴様らなど遥かに超えておる」

やがて、彼は眼をダイスケへ向け、その「命令」を静かに送る。



「アンギャア…ァァァ…」

異変は突然起こった。
それまではただひたすら暴れていた巨大ダイスケが、突然暴れることを止め、静かになる。
巨大ダイスケの一撃で再びはじき返されたメガログラウモンも、その様子の変化に戸惑った。

「…タカト…?」
「一体、どうしたんだろう…」

啓人たちの周りにラピッドモン、タオモンも集まる。
再び暴れ始めた時のために体制を立て直した。
だが。

『───るか』
「「「!!」」」

今度こそ、全員に聞こえた。
声はまだ、フィルターが掛かっているかのような感じだが、それでも先ほどよりは遥かにはっきりとしていた。

やがて次に聞こえた時は、言葉がはっきりと理解できるようになっていた。

『聞こ──えるか』
「…どこから…」

留姫が辺りを見渡しながら言う。
やはり先ほど啓人が聞いた声とは、空耳では無かったのだ。

しかし、声は近くにいる誰かが発しているのではないようだ。
何故そう言えるのかは説明出来ないが、確信が持てる気がした。
声の方はと言うと、聞こえた事を確認したようで、多少穏やかになる。

『──良かった。敵は我々の先手を行っているが、まだ私の行動には気づいてない。こうして、君たちにコンタクトを取ることが出来たことも』
「あなたは誰です!?」
『私は君たちとは別の世界に住む者だ──そして、君たちと戦っている、彼も』
「…デジタル…ワールド?」
『正解とも言えるし、違うとも言える』

意味有り気な言葉を放つ声。

『我々は君たちとは違う空間──別の次元に住まう者』

別の次元…それは、かつて、沖縄での戦いで出会ったことのある、あのデジモンの住む場所と同じような所なのだろうと、子供たちは理解した。

「…その『別の世界』に住む人が…どうして僕たちに?それに、彼は何故、暴れるんです?」

健良が声に聞く。

『話せば長くなる──要点のみ答えよう。彼は我々の世界で、君たちと同じようにデジタルモンスターと通じた少年だ。至って普通の──だが、彼の身体は捕らえられた。邪悪な意思を持つ者に』
「邪悪な意思を持つ者…」
『そう』

啓人が彼の言葉を反復する。

「じゃあ…やっぱりあの人間は…」
デジヴァイスに表示された名前、『本宮 大輔』。

『その邪悪な者が君たちの世界に混乱を招くべく、彼を操り、ここへ向けた──あのデスモンと同じく』

メガログラウモンたちが上空を向く。
そこには巨大な瞳を持つ魔王。

「そうか…やはり」
『この世界の人間たちの抵抗が、奴にとっては邪魔だったのだろう──これによって奴の動きが分かったのは幸いと言うべきか』
「それで、どうすればいいんです…?」

啓人が聞く。
あの人間──大輔が操られている以上、ますます攻撃はしにくくなったのだ。

『彼を解き放つ事は、可能だ』
「…方法は?」
『先も言ったとおり、彼は別の者によって操られている──彼には、その命令に対する受信機が付けられている』
「受信機…」
『彼の心を封印し、力を暴走させる──そして、邪悪なる者の声のみしか聞こえなくなる危険な物──それが』

「邪念の種」。
声は、その受信機をそう呼んだ。

「邪念の…種」
『それは彼の後ろ首に取り付いている』
「…破壊…出来るんですか?」
『君たちのパートナーの力なら可能だ』

声は言った。

『…すまない、私はこの世界に干渉出来ない。君たちの力でしか出来ないこのだが──出来るかね?』
「やってみます」

啓人が答えた。


その時、巨大ダイスケが突然動いた。

「「「!!」」」

それまで動きが停止していただけに、その突然の行動には全員が驚いた。
だが、先ほどのように暴れるのではなく、ゆっくりと動き始めた。

『──気をつけるんだ』

声も緊張した声で言う。

「…はい」

やがて、巨大ダイスケはゆっくりと反対側を向くと、その方向へ歩き始めた。
周りには足音が響く。

「…どこへ行く気だ」

タオモンが言った。
…よく見ると、ダイスケの顔は今までのように怒り狂う顔ではなく、何故か綻んでいた。
一言で言い表せば「でれっ」としている。
そして、ダイスケは口から声を発した。
今までのような叫び声ではなく、言葉を。

「…ヒカリちゃ〜ん…」
「「「(何ィィィ!?)」」」

最初の第一声が、意味不明な言葉。
まるで、誘導されているような…。
嫌な予感がするのは気のせいだろうか。



「…どういうことだ?何故破壊をやめたんだ」

作戦室で鎮宇が呟いた。
作戦室の窓からも、生物の動きが見える。
進行方向を変え、歩き出す姿。
山木と成田も画面を見ていた。
山木が呟く。

「…巨大生物がリアルワールドへ出現している今でも、デジタルワールドから信号が生物に向け発せられていた。やはり、生物は操られている。だが…」

山木と成田は窓の外を見てから、推量を続ける。

「何故だ?今破壊活動を止める必要は無い。もし戦う必要が無くなったのなら、前回の戦いのようにデジタル空間へ格納すれば良い筈」
「…と言う事は、進行方向を変えたのには何か、別の理由がある」
「…まさか」

何かに気づいたようで、山木が青ざめた。

「成田、地図を見せてくれ」

成田が部下へ指示すると、直ぐに品川一帯の地図が広げられた。

「ここが、生物の現在地です。そして、生物の進行方向は…」

自衛官がペンで地図に状況を書き込んでいく。
進行方向を表す矢印をそこへ書き込むと、山木もペンを取り出した。

「…やはりか」
「…山木?」

成田が聞く。
山木は成田、鎮宇の前で、ある場所を囲んだ。

「奴の向かう場所は、ここだ」

進行方向に存在する、一つの建物。

「…火力発電所!?」
「そうだ」

成田が山木の顔を見る。

「まさか…そんな所に向かえば、奴にとっても危険だろう?」
「いや、寧ろ好都合なのだろう。敵にとっては、巨大生物はもう無用の長物となったのかも知れん。いずれにせよ、奴をそこに向ければ、甚大な被害が出るのは確実」
「ヒドい事を考えるモンだ、敵さんも」

成田が冷や汗をかきながら言った。

「成田、止められるか」
「任せとけ。ただ、俺らだけじゃキツいな」
「子供たちの力も借りよう」
「いや」

山木が窓の外を見て言った。

「既に子供たちは動いている」



どうやら、別の世界からの声によって、敵の読みは彼らにも伝えられたようだ。
デジモンたちは三匹がそれぞれダイスケの周りを飛び、かく乱していた。

「ラピッドファイア!!」
「梵筆閃!!」

攻撃が命中する度に、ダイスケは蝿を振り払うようなしぐさをする。
だが、進撃は止めようとしない。

「メガログラウモン!」
「ああぁぁぁっ!!」

メガログラウモンが足に体当たりする。
重い一撃にダイスケの身体が揺れ、倒れこんだ。

「アンギャアアァァ!!」
「今よ!タオモン!」
「孤封札!!」

大量の札がダイスケに張り付くと、ダイスケの足の動きが封じられた。

「ちゃ〜んす!」

ラピッドモンがダイスケの背に回る。

「…あれは…」

ラピッドモンの眼がダイスケの後ろ首を捕らえると、その一部分だけが──まるで映像が霞んでいるような状態だった。
その部分は1mほどの楕円形を描いている。

『──あれが邪念の種だ』
「ラピッドモン!」
「もーまんたい!ゴールデン…」

だが攻撃が発動する直前、ダイスケは上半身を反転させた。

「トライアングル!!」

三角の光線がダイスケに直撃するが、種には命中しない。
更にダイスケの腕がラピッドモンを弾いた。

「うわぁっ!」

ラピッドモンは建物に叩きつけられた。
さらに足の動きを封じていたタオモンの札も力を失い、全てが剥がれてしまう。
巨大ダイスケは立ち上がり、再び進行を開始した。

「アンギャアァァァ!!」



「その程度の攻撃で敵うものか」

戦いを静観する影は呟く。

「儂の力が『種』に受信され続ける限り、奴は傀儡だ…そして、間も無く奴はその任を終える。華々しい死によってな」

邪念の種に信号を送り続ける影。
彼はこの「余興」が自らの思い通りに終わりを迎えると確信していた。
だが。

──させねぇ。

「…何」

──俺はお前に支配されない。

「…意識が戻っているのか…」

自らの意識に飛んでくる叫び。
その声に、影は僅かな驚きを覚えた。

「まさか、邪念の種が憑いてからこれほどの時間が経っても、まだ意識が残っているとはな」

──とっとと出てけ。この首に憑いてるヘンテコな物と一緒に!

「五月蝿いぞ小僧。貴様は儂の指示通り動けば良い…」

──出ていけ!



同じ頃、半壊したオフィスビルの部屋の一つ。
机や椅子、さらに大量の書類が散乱する中、ベルゼブモンは壁にもたれ掛かっていた。

「…つ…」

片手で額に手を当てると、そこには血が。

「あの目玉野郎…」

幸いにして、そこ以外で出血している箇所は無い。
再び立ち上がり、戦闘に参加しようとするのだが。
攻撃の気配が、身の危険を自らに知らせた。

「!!」

次の瞬間、建物にエネルギーの矢が降り注ぎ、部屋が崩された。


「念のため、生きていたら困るからな…」
「ネイルボーン!!」

デスモンとスカルサタモンが、必殺技をビルに連続してぶつけた。
やがてビルは全壊し崩れる。
粉塵が、辺りを包んだ。

「死んだか…」

デスモンが、呟く。
しかし、粉塵の中には、宙に浮く一つの影が。

「…いや…まだか」
「当たり前だ。そんな技で俺が倒せるか」

次の瞬間、粉塵から放たれるエネルギー弾。

「!!」

デスモンは咄嗟に、デスアローを弾に打ち込んだが、それらは全て弾かれる。

「何…!」

ベルゼブモンの銃弾・デススリンガーがデスモンに向かう。
デスモンは回避するが、次のベルゼブモンの動きを予測してはいなかった。

「デスモン様!罠です!」
「!!」

粉塵に、赤い円が描かれたと思うと、そこから先程とは比べ物にならないほどの巨大な波動が放たれ、デスモンに直撃する。

「ぐお…」

反対側のビルへ激突するデスモン。
反動で傷ついた腕を支えながら、ベルゼブモンは言った。

「ち…これが俺の力だ…!目玉野郎」




「アンギャア…ァァァアアア!!」

一方、ダイスケはより一層、暴れだしていた。

「ま、また様子がおかしくなってるよ!?」
『敵の信号が乱れている…彼自身も敵と戦っている。心の中で』
「…啓人、メガログラウモンに邪念の種を破壊させてくれ」

健良が進言した。

「ラピッドモンに決定打を与えるほどの体力は残ってない。倒すには、メガログラウモンの攻撃力が必要だ」
「…分かった。でも、どうやって後ろ首に?」
「私とタオモンが援護するわ」
「私たちに任せておけ」

留姫とタオモンが啓人とメガログラウモンに告げた。

「頼んだよ」

タオモンが再び飛び上がり、ダイスケの前で停止した。

「お前に巣食う邪悪な念を、私が払おう」

タオモンが袖から、札を出した。
ダイスケはその札に警戒し、再び突撃してきたが、それこそ彼女たちの狙いだった。

「むーりだよーっ!ラピッドファイア!!」

ラピッドモンに搭載された全ての火器がダイスケに命中し、ダイスケは前のめりに倒れた。

「はッ!!」

さらに、タオモンが再び孤封札を放ち、ダイスケの足の動きを封じた。
だが、それ以外の身体の動きはまだ封じられておらず、上半身のみ上げようとする。
と、ダイスケの目の前に3機の武装ヘリが飛んできた。

『動きを封じろ!ヘリ部隊攻撃開始!』

成田の命令で、AH-1Sヘリがダイスケを目掛けてバルカン砲を放つ。
攻撃は直撃し、ダイスケは再び倒れこむ。

「アンギャアァァァ!!」



「よし、動きが止まった!」

成田が攻撃の成功を確認する。
山木が呟いた。

「後は頼んだぞ…」



「山木さんたちだ!」
「お願い、啓人君!!」
「行けっ、メガログラウモン!!」

啓人の声に反応し、メガログラウモンは飛び上がる。

「うおおぉぉぉっ!」

そして首に回ると、そこには先程と同じ、不自然に揺れる楕円形の影。

「それだ!」

メガログラウモンの胸部に付いた銃砲が光る。
しかし、その時、突如として影は実体を表した。

「何ッ…!」

それは毒々しい紫色をした、巨大なアーモンド型の物体。
植物の種のようにも見えるが、不気味なエネルギーが周りを取り囲んでいた。

『邪念の種が、実体を表した…』

助言する声も、信じられないとばかり揺れた。
刹那、種は割れ、中から不気味な触手が大量に現れた。
メガログラウモンが反応する前に、その触手は彼を包み込んだ。

「ぐあぁっ…」

一瞬、声が触手から漏れたが、それさえも邪念の種は包み込む。

「メガログラウモン!」



種へ遂に攻撃が及ぼうとしたが、そのことを既に予測していた、邪念の種の主は彼らを嘲笑った。

「フハハ…所詮儂の力にお前たちは及ばん!」

だが触手がメガログラウモンを包み込んだ瞬間、大輔の声が再び、彼の脳裏に響く。

──まだ終わってねぇ。

「何を言う。もはや終わりだ!貴様も、あのニンゲンたちも!」

──何を言おうが、お前の思い通りにはいかせない!

次の瞬間、影は目の前で起こった事に驚いた。
画面に映る、邪念の種の触手が、ひび割れていく。

「…何だと…」

──今だ。コイツをブチ壊せ!



その声は、メガログラモンにも確かに聞こえたようだった。
ついに触手は剥がれ、崩れ落ちる。

「!」
「触手が外れた!」
「啓人!」

メガログラウモンと啓人が、その種に、ダイスケに向かって叫ぶ。

「「行けぇ!!」」

  アトミックブラスター!!

放たれた強大なエネルギー砲は、邪念の種に直撃し、完全に破壊した。
崩れ、粒子化し、消えていく種。

「ギャ…」

同時に、巨大ダイスケの動きも停止する。
そして、ゆっくりと…体が光の粉となっていく。

「やった…」

啓人がそう呟いた。
力を使い尽くしたメガログラウモンが地上に降りると、ギルモンに戻り、ぱたり、と倒れた。
急いで、子供たちと、デジモンたちは走る。
啓人、留姫、タオモン、健良、ラピッドモン、樹莉、クルモン、博和、ガードロモン、健太、マリンエンジェモン。
その場にいた全員が、ギルモンの元へと駆け寄った。
啓人に体を支えられると、ギルモンはにこりと笑い、啓人に言った。

「やったよ、タカト」
「うん…よくやったよ、ギルモン」

全員がギルモンと啓人を囲んで、ようやく訪れた動乱の終わりを喜んだ。
と、その時。

「…これは…」

粒子化した光の粉が、子供たち、そしてデジモンたちを取り巻いていた。

『よくやってくれた…そして、君たちにもう一度、お礼を言おう』

助言の声が、彼らにそう告げる。
すると、光の粉は彼らを包んだまま、ゆっくりと上空のデジタル空間へ登っていく。
彼らを、そこへ運んでいく──。



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