時空を超えた戦い - Evo.12
The Morning Glow






「可愛い子には旅をさせろ」って、よく言うよね。
誰が言い始めたんだろ、これ?

さぁな。
ただ俺たちの場合、「旅」し過ぎだと思うけど。









カラフルなワイヤーフレームによって構成された、ネットワークの通路。
中はまるでパイプのような筒状で、時々「工事中」や「通行禁止」などの、現実世界でもおなじみの標識が浮いている。
大きなデジモンでも十分通れるくらいの広さで、いくつかの巨大な「部屋」が道を進めば存在する。
そんな空間で、10人の子供、そして彼らのパートナーデジモンが集まっていた。

それぞれが自分の持つデジヴァイスを眺めたり、パートナーと話したりしている。
…要は、彼らは集められたものの、今はやるべき事が無く、手持ちぶさたとなっているのだ。
そんな中で、一人佇む少年。
髪型は他人と間違えようが無いほど特徴的で、如何にも活発そうな雰囲気。
年齢は14、5歳だろう。
少年は眼を瞑り、ゆっくりと腕をポケットに入れた。

「…どうしたの、タイチ?」

彼の隣に、黄色い恐竜のような姿のデシモンが近づいてきた。
デジモンの動きを、「タイチ」と呼ばれた少年はポケットに入れてない方の手で制する。

「しっ…少し黙ってろ、アグモン」

彼はパートナーに、小さくそう告げた。

「何かが…来てる」

太一の立ち位置の真後ろに、一つの通路がある。
耳をよく澄ませば、その通路から、ゆっくりとこちらに近づいてくる音がある。

やがて、その音がすぐ近くまで来たことが分かった時。
太一は勢いよく振り向くと同時に、ポケットに入れていた右手を抜く。

「秘伝!八神家流奥義・トランプソード!!」

…そんな言葉を発しながら。
太一は右手の指に挟んでいたトランプを投げた。


どすっ。

「ぎゃあぁぁぁ!」

通路から出てきた(というより、半ば転がり落ちてきた)のは、頭に太一の投げたトランプが刺さった少年と。

「じ、ジョ〜!大丈夫!?」

アザラシのような白い体を持つ、彼のパートナーデジモン。

一方、太一の方はトランプが刺さった相手に全く気づいてないようで。

「ふ…マチャアキもビックリだぜ…」

そんな事を口にしている。
が。

「「「何やってんだー!!」」」
「ぎゃー!ソーリー!!」

彼の周りにいた子供たちに、手荒いツッコミを受けたのだった。


「はいミミ、消毒液」
「ありがとパルモン!…よし、いいですよ、丈先輩」
「いっ…ありがとう、ミミ君」

先程太一のヒドいトランプ投げを喰らった丈は、ピンクに髪を染めた少女と、彼女のパートナーに治療を受けていた。
礼を言われた少女はにっこりと笑うと。

「も〜、丈先輩!お礼なら薬持ってきてた伊織クンに言ってくださいよ〜!」
「さっすがイオリだぎゃー!」
「い、いえ…僕はたまたま持ってきていただけですから…」

薬箱を持った背の低い少年が謙遜する。
その隣でアルマジロのような姿のデジモンが少年をたてていた。
一方で。

「何やってんだよ太一!バカみてぇな技ばっかり磨きやがって!」
「当たり所が悪かったら、出血どころじゃ済まなかったかも知れないのよ!」
「しーましぇん…」

太一は金髪の少年と、彼らと同年代らしい少女に説教されていた。
二人とも怒り心頭、といった感じである。

「まぁまぁ、ヤマト…」

金髪の少年の横では、獣の毛皮を被ったようなデジモンが彼の怒りをなだめていた。

「はぁ、それにしても〜…暇よねぇ、ソラ〜」
「ふぅ…本当は、暇なんて言ってる場合じゃないんだけどね…」

空はまだ太一を睨みつけながら、ピンク色の体を持つ鳥型デジモンの言葉に答えていた。

「ゲンナイさん…大丈夫かしら…」


「大輔君、大丈夫なのかな…」
「ブイモンもいなくなっちゃったし…」

太一が説教を受けているのを尻目に、背の高い温厚そうな少年と、彼の頭の上に乗っかる頭に羽根が付いたデジモンが不安そうに言葉を交わす。
…話題はもちろん、本来彼らが集められた事件の犯人…いや、被害者についてである。
その話に加わっているのは、デジカメを首から提げている少女と、彼女のパートナーの猫のようなデジモン。

「ゲンナイさんからの連絡も、あれから無いみたいだし…」
「全く…。何処へ行ったんだ、ダイスケとブイモンは!」

そして、藍色の髪を持つ少年と、緑色の幼虫型デジモンも会話に加わっていた。

「心配だね、ケンちゃん…」
「そうだね…ん?」

彼が手に持っていた機械、『ディーターミナル』が短い電子音を鳴らす。
見ると、そこには「メッセージが届いています」の文字が。

「…まさか」

もしかして、彼では?
急ぎディーターミナルの画面を見る。

 賢へ
 俺が居ない間に、そっちで何かあったか?
 特にタケル!ヒカリちゃんに近づいたりしてないか!?
 至急返信求む!
 …あ、俺は無事なんで。
 明日ブイモンとそっちに戻る。
 何人かオマケも付いていく予定。
             
            大輔

「……」

何なんだよ、このメール!?
大体優先順位違うだろ!
散々迷惑かけといてまず気にするのがそっち!?
オマケって誰!?
そこの説明一切ナシ!?

…あぁもう、何からツッコめばいいのかよく分かんないよ…。

「相変わらずだね…」
「…はぁ…」

決めた。
返信しない。
自分で勝手に判断しろ。

「…一応、太一さんたちに無事だってこと、伝えよう…」

未だに説教があちらでは続いてるだけに、介入するのは気が引けるのだが。



「…あ」

ノートパソコンに向かっていた少年が呟いた。
後ろから赤い昆虫のようなデジモンも顔を出す。

「ようやくでんな、コウシロウはん」
「京さん、ゲンナイさんからメール届きましたよ」
「本当ですかセンパイッ!」

名前を呼ばれ、眼鏡をかけた少女が、駆け寄ってきた。
真紅の体と、頭に付いている一本の羽が特徴的なデジモンも彼女について来る。

「あっ、届いてますね…」
「…ブイモンも無事なようですね。何よりです、ミヤコさん」
「大輔のやつ。戻ってきたらキッツイお灸据えなきゃね」

突然、後ろに「ヌッ」という効果音が付きそうなくらいの勢いで人影が現れる。

「そうだぞ〜、一回大輔にヤキ入れてやらねぇとな〜…」
「太一さん、そんな大げさな…ってうわぁぁぁ!?」

後ろから聞こえた声に光子郎が振り向くと、そこには両手を前に突き出し、血塗れのボロボロの服を着て「あ〜」と叫ぶ太一が。
…さっきの説教で何が!?

「「「(どっかで見ことある〜!!)」」」
「うわぁ!噛み付かないでください、太一さん!ウィルスが、ウィルスが〜!!」
「「「何やってんだ太一ィィ!!」」」
「…ここってラ●ーンシティでしたっけ、ミヤコさん?」

ホークモンの発言は太一への全員ツッコミによってかき消された。
愛ある子供たちからのツッコミによって、太一は正気を取り戻すのだった。
…嘘です。



「「ただい──」」
「「遅い!!」」

ばこーん。
家に着くと同時、啓人とギルモンの顔面に小麦粉がまんべんなく付いているパン生地が…
って確か、前日の朝も同じ様な攻撃を喰らわなかったっけ?

「子供が外出歩く時間じゃないでしょう!?」
「…ケホッ…。な、何があったか知ってるでしょ、お母さん!」

無論、今日の騒動もテレビで中継されていたわけで。
啓人たちがこうして何とか騒動から抜け出し、家に戻れたのも、山木の計らいでしばらく作戦室で待機して、マスコミの動きが静まるのを待ってからお忍びで帰ったからであった。
そのせいで時計の短針が「10」を指す時間になってしまったのだが。

ここまでの経緯を啓人が両親に話すと。
双方、ため息を付き、最初に言葉を発したのは母親。

「…まぁ、それなら仕方無いわね」

そう言って、いつもどおりの笑みを啓人に向ける。
それを見た啓人は嬉しく感じた反面、申し訳ない気持ちに再び晒された。
…また、旅に出ることを決意してしまったから。
それを知る由もない母は居間に戻ろうとすると。

「じゃ、ご飯食べる?あ、それよりもお風呂が先か」
「服が物凄い汚れてるぞ、啓人」
「え〜、ギルモンご飯食べたい!」

「あ、あのさ!」

啓人が声のボリュームを上げて叫ぶ。

「「…?」」

両親が振り向いた。
まず、話さなければならないことが二つある。
…あの二人を見たらどんな反応するだろうなぁ…。

「え〜と…大輔、入ってきていいよ」
「?」

啓人が後ろに声をかける。
すると、人影と、それよりも一回り小さな影が。

「…こ、こんばんわ〜…」

大輔が申し訳なさそうな顔で入ってきた。

「「!!」」
「なぁっ!?き、君は…!?」

父親が狼狽して言う。
その顔は、ついさっきまで街で大暴れしていた巨人ではないか!?
それに、後ろにいる青いデジモン…何者!?
啓人が慌てて大輔の前に出て言う。

「お、お父さん!落ち着いて!?お母さ…うわーーっ!?」

一年前の戦い以来、かなり肝っ玉が強くなっていた母だが、流石にこの衝撃は別物。
文句を言ってくると思いきや、ブクブク泡を吹いて倒れかけているではないか。
慌てて父が体を支えると、辛うじて正気を取り戻した母が口をパクパクさせながら呟く。

「あ、あんた、そ、そそ、それ…!!」
「な、なぁ啓人…」

慌てた大輔が啓人の服の袖を引っ張り、小声で話す。

「(やっぱり俺、ココに来るのマズイって!どっか近くで野宿するからさ!)」
「(えぇっ!?ちょっと待ってよ、説明すれば分かるから!)」
「(あの反応見て大丈夫かどうかくらい俺でも分かるよ!)」
「(どっちみち姿を見られちゃったんだから意味ないでしょ!?大丈夫、一年前にギルモン見せたこともあるから、こういうことには慣れてるはずだよ!)」
「(どー見ても慣れてねぇよ!!)」

しかし、この場合啓人の発言の方が正しかった。
既に姿を見られてしまった以上、説明は必要な訳だ。
母は相変わらず愕然としているが、父はやや落ち着きを取り戻している。
ハァ、と大きなため息をつくと。

「と、とりあえず、皆、座ってくれないかな…」

あーあ、また一つ課題が増えてしまった。



一方、健良の家では。
啓人の家よりも少し早く、家族会議が開かれていた。
小春だけは健良が帰ると既に眠っていたが、鎮宇に、母、兄、姉、そしてロップモン。
最後にテリアモンを抱えた健良が座り。
こちらは既に鎮宇が状況を理解していることもあり、鎮宇が健良の代わりにいきさつを全員に話し終わっていた。

「お父さん──話は…」
「皆にはもう話したよ。それで健良、どうする気だ?」

分かっているのに、あえてもう一度、家族の前で質問する鎮宇。
尤も、それも、健良の決意を全員に知らせるため、わざと行った質問だった。
鎮宇からの説明だけでは、とても全員が納得するわけが無かったから。

「…皆にまた、迷惑をかけてしまう事は分かってます。それでも僕は、彼らに協力したいです」
「「「…」」」

それぞれの懸念の表情。
鎮宇も例外では無かったが、それでも暖かい笑みを浮かべると。

「私は、健良の選択が正解だと信じているよ。お互いに助け合う、これは当然のことだ」
「…お父さん」
「家族会議って言ったから構えちゃったけど…もう結論付いてるみたいじゃない」
「行って来いよ、ジェン」
「無理は、しないようにね…」

健良がありがとう、と一言言うと、テリアモンがロップモンの方に向き直って話した。

「ロップモーン、ぼくたちがいない間、こっちの世界をよろしくねー。小春のことも」
「任せる也。我、必ず小春を守る。もーまんたい、也」
「アハハ」

「お父さん、皆…ありがとう」
「頑張れよ、健良」



留姫の家でも、居間での会話があった。
留姫、母、祖母、そしてレナモンの四人。

「…そういう訳なんだけど、お母さん…」

留姫が言う。
母は少し哀しそうな表情をしたが、笑って言葉を返した。

「今更止めたって、前と大して変わらないし。留姫、行っておいで」
「ありがとう…」

祖母の方は、レナモンの方を向くと。

「前に言っていたこと、今度も信じていいのね?レナモンさん」
「勿論です。私が命を懸けて、ルキを守ります。その誓いは今も変わりません」
「レナモン…」

留姫がハッとして、祖母に向き直る。

「わ、私も、レナモンに無理はさせない!絶対に二人で帰ってくるから!」
「それを聞いて安心したわ。任せっきりになってても、申し訳ないもんね。留姫ちゃん…」

留姫が頷く。
祖母はレナモンの方を向いて、改めて言った。

「お願いします──」

レナモンが深く頭を下げた。



「申し訳ありませんでしたァッ!!」

大輔がレナモンよりも深く頭を下げる。
ようやく落ち着きを取り戻した両親たちも、経緯を説明されると、大輔を一晩泊めることを快諾した。
啓人はそれを聞いてホッとしたが、大輔の方はまた責任を感じ始めたのか、謝りっぱなしだった。

「もう良いから、大輔君も頭を上げなさい」
「は、ハイ…」

大輔がようやく謝るのを止める。

「…啓人、さっき説明してたことは、お前たちの本心なんだな」
「…うん」

啓人が迷いの無い眼で答える。

「…行くのか、また」
「…僕たちは今まで、自分たちの身を守るだけでも精一杯だったけど」

啓人が大輔の方に一度眼を向けると、言葉を続けた。

「周りで起こっていることをただ傍観しているのも嫌なんだ。こんな事言って、傲慢かも知れないけど…僕たちが力に慣れるなら、どんな協力でもしたいんだ」
「…そうか」
「お父さんとお母さんには、また迷惑を掛けちゃうけど…お願い。行かせて欲しいんだ」

啓人もまた、頭を下げた。

「…止めても行くのが、お前だろ。今更止めようなんて思わないよ」
「そうね。自慢の息子、だもの」

父が笑って言ってくれた。
母が送り出してくれた。

「…ありがとう」

「…さて、ご飯にしようか!」

再び明るい声が掛かった。
ギルモンとブイモンが眼を輝かせる。

「わーい、やったー!」
「さぁ、今日の晩飯は売れ残った食パンの耳だ!」
「わー!せめて朝ご飯にして下さい!!」

そんな(どんな?)会話が流れる、夜中の松田ベーカリー。



「…なんで俺、ここに居るんだ」

深夜の公園で、インプモンが一人佇んでいた。

「…何でだ?確か俺、家に居たはずだけど」

そうそう、確かあの目玉野郎と戦って、劇的勝利を収めて。
その割にアイツらだけ勝利ムードに浸ってて、多少不機嫌になったりもしつつ、姉弟のテイマーの家に帰ったのだ。
何時も通り迎えてくれた、自分の二人のテイマー。
…そりゃ、帰った後、「もう危ないことしちゃダメだよ!」とか言われてしまったけど。
それで、一通りケガした箇所を治療した後、どっと疲れが来て眠ってしまって。
…あ、じゃあコレ、夢か。
こうやって頬を抓れば、全然痛みも感じないハズ…

「…イデ…」

…何で?
と、その時、周りの景色が一転した。
一瞬光り輝くと、淡い虹色の空間が現れる。

『久しぶりだな』

「!?」

この声は、いつか聞いたことのある。

『まさか貴様とこの様な形で再び合間見えることになるとは』
「…てめぇは」

そこに現れたのは、真紅の体を持つ巨大な聖鳥。
体の周りに12の電脳核を纏い、荒々しい炎のオーラがデジモンを包み込んでいる。

「…スーツェーモン」

インプモンが向き直る。

「何だ、また俺に力を与えて利用でもしたいのか?」
『久しぶりに会うというのに、随分な挨拶だ』

何時も通りのことなのだが、不機嫌そうな発言である。

「とりあえず、こっちとしても聞きたいことはいっぱいあるんだけどな。まずは…」
『貴様を此処へ呼び出したのは、この広場が我々の世界と比較的波長が合い易いからだ。私としては不服だが、貴様の力を借りねばならぬことが出来たのでな』

あぁ、そう…。

「…で、なんだ、その用件ってのは。悪いけど、前みたいな下らない命令なら聞かないぜ」
『安心しろ。今回は違う。そして此れは悪魔で依頼だ。行動に出るも出ないも、貴様次第だ』

そんな事を言ってくれやがる。
じゃあ、何で呼び出したんだよ、とか言い返したくなったのだが、口に出すよりも目の前の神の方が先に言葉を放った。

『デジタルワールドの別の空間との波長が、最近狂い始めている』
「…!」
『尤も、貴様は其れを既に認知しているな。先日リアルワールドに出現したニンゲンとデジモンがその良い例だ』

…やはり、か。

「…じゃあ」
『我々は数日前から別次元のデジタルワールドの者たちと連携し、姿無き敵の動きを探っている。しかし我々四聖獣は此方の世界より動くことが出来ない』
「なるほどな。それで俺に代わりに動いて欲しい、ってワケか」
『その通り』

刹那、インプモンの前にデジタルゾーンが現れた。

『協力するのなら、此方の世界に一時、戻れ』
「…ったく、やり方が相変わらず強引だな…。今からかよ」
『来なくても良いと言った筈だ』
「…ハァ」

インプモンが頭をボリボリと掻く。

「前みたいな面倒になったら、真っ先に帰るからな」
『勝手にしろ。我々とて貴様の力など好き好んで借りたくは無い』

ゾーンが、開かれる。
インプモンもまた、この空間へ突入した瞬間から、渦巻くデジタルワールドの騒動へと巻き込まれていくのだった。



朝日がゆっくりと昇る。
前夜の喧騒が嘘のように静まり返った街中では、自衛隊の車両が続々と撤収していった。
作戦室も機材が運ばれ、今や何も無いオフィスの一室へと戻っている。

作戦室のあった、街と朝日がよく見えるビルの屋上で、山木が煙草を吸っていた。
久しぶりに迎えた、静かで穏やかな朝。

「よぉー山木!物思いにフケるてめぇもカッコいいなぁ〜」

…五月蝿い奴がまた来たよ。

「全く、何故お前はそんなにテンションが高いんだ、いつも」
「何言ってんだよ、こちとら疲れが溜まりまくりでブッ倒れそうだぜ」

山木の隣についた成田も煙草を加えていた。
そしてウゥー、と声を出しつつ背伸びをする。

「あぁーっ!疲れたッ!」
「全くだ」
「いやーッ、久しぶりに朝焼け、見たな。青春時代を思い出すよ」
「…そうか?」
「あぁ」

しばらく会話無く街を見ていたが、やがて成田の方から問いかけてきた。

「…これから、どうすんだ?」
「遅い休暇だ。ゆっくりベッドで眠るとするよ」
「いいよなー。俺はこれから基地へ戻って、色々書類書かなきゃいけねぇんだよ。俺は疲れ知らずのマシーンじゃねぇっての」
「それはご苦労だな」

ギィ、と、後ろの扉が開く音。

「迎えに来たわ」

交際中の山木の恋人が、屋上に上がってきた。
言葉遣いも上司と部下としての物ではなく、男女の仲としてのそれだ。

「ありがとう」
「おー、鳳ちゃん!久しぶりだねぇ、いつ以来だろ?」
「あぁ、成田さん!お久しぶりです」
「今度さ、飲みにいかない?山木と二人じゃイマイチ盛り上がらなくて」

成田が親しげに話しかけるのを見て少し眉を吊り上げた山木だったが、すぐに何時ものポーカーフェイスに戻って麗花の方へ歩いていく。

「おい、山木!」

後ろから成田に呼び止められて振り向くと、成田が笑いながら言った。

「お幸せに〜」
「…お前もな。仕事、せいぜい頑張れ」
「おうよ」

そうして彼らは、同時に声を掛け合った。

「「じゃあな」」



「成田さん、相変わらず?」
「あぁ、全くだ。お陰でこちらは疲れる」

それを聞いて車を運転する麗花はクスリと笑った。

「あぁ、そうだ。寄って欲しい所があるんだが」



朝となり、玄関に立つ啓人、大輔、ギルモン、ブイモン。
啓人と大輔の背中にはリュックが背負われていた──中身はもちろん、松田ベーカリー特製のパンだ。

「わーい、ギルモンパンだー!」
「本当にありがとうござっした、泊めてくださった上に、こんなにパンまで…」
「いいのよ、頑張ってね、皆」
「「「ハイッ!!」」」

そうして家を出ようとしたが、そこで一台の車が止まった。
中から出てきたのは誰あろう、山木と麗花である。

「…山木、さん?」
「おはよう、啓人君」

二人の姿を見た啓人の両親も顔を見せた。

「朝早くから申し訳ありません」
「いえ…それよりも何かあったんですか?」
「急ぎの用、という訳でも無いのですが…啓人君と少し、話がしたかったので」

ともかく、と両親が山木をパン屋の中へと招き入れた。

山木が啓人の方を向く。

「…やはり、行く気なんだね、啓人君」
「ハイ。皆さんに迷惑を掛けるのは申し訳ないと思いますが…」
「そんな事はない。君たちが考えて決めた道なら、私は支持するよ」

にこりと笑う。

「大輔君、啓人君は勇敢で、この世界も彼らの力で何度も救われた。きっと大きな力になるよ」
「分かりました!…頼りにしてるぜ、啓人!」
「任せてよ〜、タカト、強い!」
「ダイスケだって!」
「ハハ…」

そうして、山木は再び啓人を見る。

「余計なことで時間を取らせてしまって、済まなかった。…時間は大丈夫かい?」

啓人たちがハッとなる。
集合時間に遅れたら大変だった!

「わわっ!?い、行ってきます!!」
「本当に、ありがとうございましたーっ!」

啓人と大輔、ギルモンとブイモンがあっという間に駆け出して行った。

「…何と言うか、元気でいいですね」

麗花がフフッ、と笑いながら言った。

「本当、子供は元気過ぎて」
「俺たちもああいう時代、あったんだなぁ」

感慨深げに呟く大人たち。

「そうですね…朝早くからお邪魔して、申し訳ありませんでした」
「いえいえ」

山木が立ち上がり、帰ろうとすると。
ふと立ち止まり、店の入り口にある商品トレーに向かう。

「…まだ、開店前ですかね?」

山木が悪戯っぽく笑って聞いてきた。

「じゃ、今日は早めに店を開けましょうか」
「お願いします、何せ昨晩から何も食べていないので」

山木が片手にトングを持ち、パンを選び始めた。



「ごめーん、皆!!」
「おせーぞ啓人、大輔!」

啓人と大輔が大急ぎで、集合場所となった公園に入ってきた。

「…皆も、大丈夫だった?ご両親にも…」
「もちろん。じゃないとココに来れないしね」
「おうよ、俺の場合、気合のビンタ一発で許してもらった」

よくよく見ると、確かに博和の頬が微妙に赤らんでいる。
アハハ、と笑うと。

「よし、皆揃ったようだね」

何時の間にか、目の前にゲンナイが立っていた。
既にデジタル空間も開かれ、彼らが通れるくらいの大きさに広がっている。

「では…いこうか」
「よーし!僕たちの力、見せてやろう!!」
「「「おぉーっ!!」」」

号令と共に、一人、また一人とゲートに吸い込まれていく。
夏休みに始まる、新たな冒険。







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