時空を超えた戦い - Evo.33
ライツカメラアクション!







オルガノ・ガード隊長であるヤタガラモンは、プテラノモン隊と共にロスト島周辺海域で警戒飛行を続けていた。
大砲を破壊したザンバモンの進撃を皮切りに、オルガノ・ガードは遂に上陸を開始し、現在では戦いの舞台が海上から浜辺へと移りつつあった。
ヤタガラモンが警備していたのは島の外円部であり、その使命は島の内部からのジョーカモン軍の逃走阻止である。
しかし逆に、島への侵入者に対しては、それほど厳重に監視されていたとは言い難かった。

ヤタガラモンがその影に気づいたのは、まだ爆音が島の浜辺から聞こえてくる最中だった。
プテラノモン隊5機とヤタガラモンは、猛烈なスピードで大きくなっていく影を照準に入れ攻撃を行なった。
だが、プテラノモンから発射された誘導ミサイルを、まるで風で飛ばされた薄紙のような動きで回避し、影は一直線に島へと突入していった。
そのあまりの速さに、プテラノモンたちの目では影の形すらはっきり見ることができなかった。
唯一、ヤタガラモンだけは影の形状を視認することができたが、その姿は彼にとって驚き以外の何者でもなかった。
ついにプテラノモン隊のミサイルの最大射程圏内から影が逃れたことを認めると、ヤタガラモンはすぐさまゴッドドラモンへ緊急コールを入れた。

前線で戦闘を繰り広げていたゴッドドラモンは、この通信をすぐさま受け取った。
ゴッドドラモンにとってもこの情報は驚くべきものであった。
ヤタガラモンの遭遇した地点と、今彼が敵と戦っている場所は島を挟んで正反対にある。
この「影」は一体、どうするつもりなのか。
ゴッドドラモンは、「影」がこの戦いを悪い方向へと導かないよう願うしかなかった。

「ゴッドドラモン、侵入者を許してしまった。標的は一体、姿は確認できなかったが、黒い巨大な竜型だ。あれはおそらく…」





「ライツ!」

右手の人差し指で鳥人を指す。
そのパートナーたちが手を振り返した。

「カメラ!」

右手で土偶のようなデジモンを指差す。
そのパートナーたちも、やはり反応を返した。

「アクション!!」

最後に目の前に見える警備タワーを指差した。
瞬間、三体のデジモンの攻撃が炸裂し、警備タワーはばらばらになった。

「いやー、派手にぶっ飛んだなぁ」

自分が主導で上手く事が進んだのが嬉しかったのか、大輔がニヤリと笑う。
土煙の中で怒号が響き、沢山のデジモンが警備タワーのあった地点に集まってくる。
それを眺めながら、鳥人型デジモンのパートナーの一人──井ノ上京はふと呟いた。

「…ん?」
「どうしたんですか?ミヤコさん」
「そういえばこのメンバーで戦うの久しぶりじゃない?」
「あれ、そうだっけ?」

インペリアルドラモンの肩に乗った大輔は、しばらく考えるそぶりをみせておたが、やがて考えるのを止めたようだった。
彼には、目の前に集まってくる大量の対戦相手、そしてややジャングルのやや遠方に見える、起動した砲塔の方が興味を惹くものであるようだ。

「行くよ、ダイスケ、ケンちゃん」
「おうよ」
「あぁ」

インペリアルドラモン、シルフィーモン、シャッコウモンが構えた。
対する敵の数は30、40だろうか?
まぁ、“囮チーム”としての役目は十分に果たせそうである。





「こちらセクター327、敵の襲撃があった!場所は第20警備ポスト周辺!繰り返す!」

インペリアルドラモンたちが派手な戦いを始めた頃、その様子を視認したスカルサタモンは、第19警備ポストから無線に向かって叫んでいた。
ロスト島のほぼ中央部で警備を担当していた彼は、意外にも目前で始まった攻撃に驚きながらも、想定された手順通りに警備デジモンへ通信を行なっていた。
今現在、ロスト島全域に警備担当のデジモンは散らばっているが、その戦力を集中すれば、この程度の攻撃など物量で押し返せるだろう。
そう考えていた矢先、茂みの中からこちらへ向かって急いで走ってくるガードロモンが見えた。

「大変、大変ですよ!マジヤバいっす!」

妙な言葉遣いをするガードロモンである。

「一体どうした?」
「いや、それが、また別の場所で敵の攻撃があったんすよ!マジに!パネェー!!」




「…大丈夫なの、あれ?」
「ヤバそうな気が…」
「うーん、分からねぇ…なんか言葉遣いおかしいよな」
「ぷぴぃ…」
「やっぱり、クルモンのえんぎがうまかったでくる!」

ジャングルの木陰に隠れながら、博和、健太、樹莉たちが不安そうにガードロモンの様子を見ていた。
数十分前、クルモンの陽動作戦が上手く行っていただけに、今度も上手くいくと思ったのだが…。
ここから見えるスカルサタモンは、かなり怪しんでいるのが見て取れる。

「マジパネェんですよ!七つの眼と七つの脚とそれからえーと…第八の眼を持つ超魔法が現れたんすよ!」
「(超魔法じゃない!超魔王だよ!)」
「や、ヤバいでウィッシュ!」
「(そして意味もなく手をクロスするなよ!)」
「貴様、警備班か?所属と識別番号を言え!」
「(ホラ見ろ怪しまれてるよ!)」
「し、所属?えーと……ま、マンチェスターユナイテッド…です…」
「(…)」
「…は」

一瞬、何とも言えない空気が場を支配しているのが、博和の目からもよく分かった。
やはり、ガードロモンを使うのはマズかったのだろうか。
あるいは準備不足だったのかもしれない。
警備班だの所属だの、詳細な設定をしっかり決めておくべきだった。
実は本当にクルモンがかなりの役者で、その迫真の演技があったからこそ、前回は上手くいったのかもしれない。

やがてスカルサタモンが無言で杖を構え、博和は背筋を凍らせた。
相手は完全体である。
以前のアンドロモンならともかく、ガードロモンでは敵うはずがない。
そもそもここで戦ってしまえば、かなり面倒なことになる。

だが次の瞬間、スカルサタモンの後頭部にガシャリと緑色の銃口が向けられた。
硬直するスカルサタモン。
振り返ることすらできないが、このガードロモンの仲間であるのは間違いない。

「い、いつの間に後ろに…」
「いつの間に、って…僕の名前、ラピッドモンだよ?」
「どうか抵抗しないで欲しい。君が死ぬ必要は無いんだ」

同じくいつの間にか、その場に歩いてきた健良がスカルサタモンに言った。

「その無線を渡して、ガードロモンについて行ってくれ。悪いようにはしないから」
「そんなことが…」
「無理だと言うのなら、僕はラピッドモンにミサイルを撃つように言わなきゃいけなくなる。そんなことはしたくないんだ」
「ジェンの言うことは聞いた方がいいよ〜。僕、撃っていいって言われたら本当に撃つから。最初は君が無線してた時に撃つつもりだったし」
「…」

可愛らしい声とは裏腹な不気味な想像を駆り立てる言葉に、スカルサタモンはすっかり戦意を喪失したようであった。
無線を黙って健良へと渡すと、両手を挙げてガードロモンに従った。
ガードロモンが「こっちでウィッシュ」といってまた両腕をクロスさせても無反応であった。



「ふぅ、何とか上手く言ったぞ…ガードロモンめ、ヒヤヒヤさせんなよ」
「ジェン君とラピッドモンのファインプレーね」

茂みの方へスカルサタモンを誘導する自分のパートナーを見て、博和と樹莉は安堵の溜め息をついた。
健良たちがタイミングよく出てこなければ、こうはいかなかったかもしれない。

「それじゃ今度はオレたちの番…マリンエンジェモン?」
「ぴぴぃ!」

一方の健太は、自分たちの役割が回ってきたことに生き生きとしていた。
マリンエンジェモンと自分の役割は、他の子供たち──例えば大輔や太一のような──に比べると地味な感は否めないが、無駄な血を見る必要がないという意味では、かなり良い役だ。
あのスカルサタモンが次に目覚めた時には、この戦いがすっかり終わっているに違いない。





“繰り返す、攻撃のため警備班はセクター327もしくはセクター329に集結せよ…”
「お、やってるな」

無線から健良の声が聞こえる。
ベルゼブモンはすっかり気絶している通信士官に腰掛けながら、事態が思うとおりに進んでいることを感じ、満足げに笑った。

突入後、3チームに分かれた子供たちとパートナーデジモンたち。
その内、最も大きなチームが、大輔率いる囮チームである。
このチームは、内部で更に細かいグループ分けを行い、ジョーカモンの指令系統を完璧に掻き乱していた。
インペリアルドラモンをはじめとする三体のジョグレス体は、島中央部にある大砲と、警備デジモンの大群と対峙することになった。
だが、彼ら全員でそれら全てを相手にするのは流石に荷が重い。
そこで実行されたのが、通信網を利用し、敵を“自主的に”分断させるということだった。
普段士官しか使わない無線で「攻撃のため集結せよ」などと言われれば、警備デジモンたちはほとんど盲目的に指示に従うだろう。
もちろん、実際は攻撃のための集結ではない。
どちらかと言えば、攻撃されるための集結である。
警備ポストを占領されたセクター327に向かっている哀れな警備デジモンたちは、もうすぐセントガルゴモンのミサイルの嵐を浴びることになるだろう。

「な、なんだ貴様は!なぜ無線を持っている!?」

そして、このセクター329へ集まってきた警備デジモンたちには、もれなくベレンヘーナの弾丸をプレゼントする予定である。

「そこの親切なスカルサタモンに借りたのさ」

ベルゼブモンは立ち上がり、翼を広げながら二丁のショットガンをデジモンたちに向けた。

「お前らに選ばせてやる。自らオリの中に入るか、弾のアクセサリーをケツの穴にぶち込まれるか。どっちがいい?」
「フザけんなぁ!」
「警備隊をナメんじゃねぇ!」
「たった一人だけだ、殺しちまえ!」

唸り声を上げながら殴りかかってくるしか脳の無い警備デジモンたちに、半ば呆れながらベルゼブモンは呟いた。

「いくら仕事だからって、勝てる相手かどうかくらいは自分で判断した方がいいと思うぞ、お前ら」





分散した子供たち3チームの内、八神太一・石田ヤマト、そして彼らのパートナーであるアグモンとガブモンが、彼らのみの少人数で行動しているのは理由がある。
彼らの進化後の姿であるオメガモンは間違いなく子供たちのデジモンの中でも最高戦力であり、ジョーカモンが彼らの抹殺を狙うのはほぼ間違いなかった。
だからこそ彼らは一直線にジョーカモンの指令部の地点に向かって進み、敵の目に付きそうなルートを選んだのである。
この効果は意外に早く現れた。
太一たちが違和感に気づいたのは分散してからわずか10分ほど後だった。
それでもしばらくの間歩みを止めなかったのはできるだけ強敵を他のグループから遠ざけ、目を逸らさせるためである。

「もうそろそろ、良いんじゃないかな?」

アグモンがそう言うと、四名はピタリと足を止めた。
それに合わせるように後方のデジモンも動きを止めたことが、アグモンとガブモンには手に取るように感じ取れた。

「誰だよ、さっきから尾行してるのは」

ガブモンが鋭い声で何者かに尋ねる。

「…気づかれないということは無いと思っていましたが…いやはや、素晴らしい!流石、デジタルワールド全土に名の知れた皆様です!直接こうしてお会いできる日が来るとは、光栄の極み…」
「御託はいいんだよ」
「能書きゃあいいんだよ、能書きゃあ、エモリ」

ヤマトの刺々しい一言に続いて、太一が妙に濃い作り声で続けた。

「出てこいよ、ジョーカモンの手下か?」
「いいえ、彼とは上下関係などありません。強いて言えば彼はビジネスパートナー…」

やがて声の主はジャングルの闇から姿を表した。
二足歩行の山羊のような…まさしく西洋の悪魔のような出で立ちである。
ヤマトとアグモンは多少なりの驚きを込めて呟く。

「新手か」
「てっきりデスモン辺りが出て来ると思ったんだけどなぁ」
「彼に狙った敵と戦わせるのは多少難があるものですから…申し遅れました、メフィスモンです。ジョーカモン氏のプロジェクトアドバイザーをしております」
「プロジェクトアドバイザー…」
「クローンデジモンの生成や、邪神竜復活計画など…クライアントに情報や技術を提供するのが私の仕事でしてね。ジョーカモンさんはお得意様でして、円満なお付き合いをさせて頂いております」

円満なお付き合い、という言葉に何か勝手な想像をしたのか、太一が隣で「オエッ」と呟くのを尻目に、アグモンは嫌悪感丸出しでメフィスモンを見ていた。

「嫌な商売だね」
「おやおや、聞き捨てならない。ビジネスに貴賎など存在しません。それに需要のあるモノとサービスを提供するのが商売の原則では?」
「知らないよ、そんな需要」
「この世界には、どれ程のお金をかけても力を得たいと考えるデジモンも沢山いらっしゃるのですよ。そうした方々に答えるのが私の仕事です」
「じゃあ、ここで僕たちを邪魔するのも君の仕事?」
「これはお得意様へのサービスの部類ですね…さ、遠慮は要りませんよ。オメガモンへ進化して下さい。私たちの造ったディアボロモンを倒した、オメガモンに」

彼はそう言いながら、嫌味たっぷりな笑顔を浮かべた。
これがもう少し憎しみのこもった表情ならば、自分の作品を壊されたことに対する復讐と受け取ることもできるかもしれない。
この笑顔はそれとは逆、嗜虐性のある悦びの表情である。

「元々、クローンデジモンは安価で強力なデジモンを繰り返し利用できるというのが利点でしてね。最初の技術開発費用を除けば、後はオリジナルから何度でも肉体を造り出せるのですが…やはりジョーカモンさんの仰っていた通り、記憶まで継承させる必要はなかったかもしれませんね。場合によっては、クライアントにとっての価値を自ら下げてしまいますから。全く失敗作と言う他ありません」

商品の問題点を気づかせて頂き、ありがとうございました。彼は最後にそう締めた。
彼の商業主義な視点による演説は、ある意味では筋の通った考え方なのだろう。
しかし、前の戦いでクローンデジモンと激闘を繰り広げ、更にそのクローンデジモンの出生を巡り、苦しめられた仲間を見てきた者たちにとって、この言葉は聞くに堪えないものであった。

「なぁ、お前にとってさ」

それまで黙って話を聞いていた太一は、普段のトーンよりも低い声で、静かにメフィスモンへ問いかけた。

「ブレイズ7って、失敗作だったのか?ジョーカモンに言われるがまま戦って、何回も死んで、また生き返らされてさ。それでも結局、商品?失敗作か?」

悪魔は冷笑した。

「えぇ。使えない商品は失敗作ですから」
「腐ってるな」

太一は静かにデジヴァイスを握った。
アグモンが前に立つ。
ヤマトも太一に倣い、デジヴァイスを掴む。
ガブモンが戦闘体勢に入る。
ヤマトは静かな怒りを浮かべる相棒と違い、ほとんど無表情でメフィスモンを見ていた。
唯一悪魔に対する感情が推測できるのは、彼の僅かに軽蔑が入り混じった眼である。

太一が言った。

「今初めて、あのディアボロモンがかわいそうだと思ったよ」
「ふふふ。殺した敵に同情ですか?」
「ここで終わらせてやる」

進化の光が二体の成長期デジモンを包み、彼らを最高クラスの聖騎士型デジモンへと導いた。

「「いくぞ、オメガモン!」」





「待って……大丈夫よ、行きましょう」

空は二匹のフライモンが島の中心部へ向かい飛び去るのを確認すると、他の子供たちへ合図をした。
それを受け、啓人たちは静かにジャングルの中を進む。
ジョーカモンの居城と思われる巨大施設へ向かうのは、3つ目のグループである。
まとめ役の武之内空、ピヨモン、ブレーンである泉光子郎、テントモン。
子供たちの中でも最年長者の城戸丈、ゴマモン、小回りの効く完全体へと進化できる太刀川ミミ、パルモン。
そして究極体へと進化可能な松田啓人、ギルモン、牧野留姫、レナモン。
強敵との戦闘のため単独行動をする太一・ヤマトチーム、目を引くための囮チームと違い、彼らは迂回したルートを通り、敵デジモンの目や警備ポストもできる限り避けた。
彼らこそはジョーカモンと邪神竜を止めるため本陣に奇襲をかける、いわば最重要チームであり、敵に悟られることだけはないよう静かに歩を進めていたのだった。

熱帯の大木が揺れ、小さな地鳴りが伝わってくる。
度々爆発音も聞こえた。

「大輔君たち、上手くやってくれているみたいですね」

光子郎が音の方向を向きながら呟いた。
ジャングルが視界を遮っているため、この戦いの音が具体的にどの戦いを示しているのかははっきりと分からない。
しかし、爆発音が聞こえ始めてから警備デジモンを見かける回数は激減し、実際に今進むペースは速まりつつある。
囮チームは前もっての宣言どおり、派手な戦いを繰り広げているようだ。

「方向はこっちで大丈夫なのかしら?」
「うん、問題ないよ。もう随分進んだみたいだ」

ミミの質問に、デジヴァイスを眺めながら丈が答えた。
デジヴァイスにはダウンロードされたロスト島地図(これも不完全版であり、限られた情報しか知ることができないが)が映し出され、自分たちの目的地までの距離が表示されていた。

「今度こそ決着をつけないといけないわね、啓人」
「うん…ジョーカモンを止めないと…」

啓人はそう答えながら、ジャングルの先に見えてきた影に目を奪われた。
周りの大木すらも圧倒する、巨大な塔。
しかもその周りにも、この島には不釣合いな巨大施設がいくつか建っている。

「あれ、タカト!」
「あそこに、邪神竜とジョーカモンが…」

「行こう」

遠くの爆音を聞きながら、彼らは更に潜行した。





「バーストショット!!」

緑色の身体から射出される砲弾が、襲い来るデジモンたちを次々に撃墜していく。

「ジャイアントミサイル!!」

両肩から発射された一対の巨大ミサイルが、訳も分からず混乱している警備デジモンの塊に突っ込んでいった。
爆発音と粉塵があたりを包み込み、その中でも更に銃弾を放つ音と薬莢の落下音が響いている。

「セントガルゴモンやっぱり強ぇー…俺らいらねーじゃん」
「なぁヒロカズ、俺らさっきから良い所無いんじゃないか?」
「それ言うなよ…」
「おうえんするくるー!」
「頑張れーセントガルゴモン!」

セントガルゴモンはセクター327を占領し、博和がうんざりするほどの勢いで警備ポストへ集まってくる敵を撃破していった。
この仕事は中々の重労働だが、別のセクターを占領したベルゼブモンと分担をしたのが功を奏したらしい。
敵が態勢を立て直すのはもうしばらく時間が掛かるだろう。
それもこの後、態勢を立て直せるほど警備デジモンがこの場に残っていれば、の話なのだが。

「(この調子ならタカトたちも首尾良く進んでいるだろうね、セントガルゴモン)」
「え〜何?よく聞こえないよ、ジェーン!!」

聞こえないフリをしているのか、それとも爆発音で本当に聞こえないのか。
自分自身の中から聞こえる健良の声に、のん気に答えるセントガルゴモン。
少し暴走気味な気はするが、この作戦は万事順調に進んでいる。
健良はそう感じた。




その時視界にひとつの影が入ってきた。
紫色の竜が翼を広げ、こちらへ向かってくるのだ。
いや、あれは竜なのだろうか?
身体に哺乳類のような毛が生えており、獣と竜の中間のような姿である。
しかし健良が何より驚いたのは、その竜が背に少年を乗せていた点であった。

粉塵の中、紫の獣竜は、つかの間攻撃を止めたセントガルゴモンの前に降り立った。
彼よりも随分小さいようだが、究極体を前にしてもそのデジモンは動揺しているようには見えない。

まるで、自身も究極体に進化できるかのようである。



「ジョーカモンを倒したのはお前たちじゃないな」

獣竜から降りた少年が言った。
年は同じくらいだろうか。
表情はよく分からないが、少なくともその言葉に感情はこもっていなかった。

「(君は誰だ?そのデジモンは…?)」
「一度だけ言う。この戦いから手を引いてリアルワールドへ帰れ」
「どーゆーことだよ?」
「これは警告だ。お前たちじゃ俺たちには勝てない。帰れ」


健良も、セントガルゴモンも、唖然とした。
帰れ?俺たちには勝てない?
一体、彼は何を言っているのか。


「おいテメー!さっきっから何言ってんだよ!」

意味が分からなかったのは博和も同じようで、茂みから思わず飛び出して少年に野次を飛ばし始めた。

「お前らもだ。今リアルワールドに帰らないと大変なことになるぞ」
「っ!」

たまらずデジヴァイスを構える博和。
ガードロモンが立ち上がり、樹莉と健太も妙な雰囲気を察知したのか、黙りこんでセントガルゴモン、博和と少年を交互に見ていた。

「ガードロモン!健良!こいつの目を覚まさせてやろうぜ!」
「(君は…一体…)」





身構えるセントガルゴモンとガードロモンに対し、少年は腰につけていた小さな機械を握る。

「俺は警告したぞ」





この後、セントガルゴモンとガードロモンは、ロスト島に潜入した子供たちとそのパートナーの中でも、最初の敗北を喫することになる。
新たな選ばれし子供、そして彼のパートナーであるデジモンは、健良の見立て通りの進化を遂げた。
そしてこの敗北を皮切りに、万事順調に見えた子供たちの作戦は崩れていくことになる。


彼らにとって、未だ経験したことのない、辛い試練の時が、訪れようとしていた。


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