時空を超えた戦い - Evo.36
八番目の複製 -1-






「だからなんで来たんだよお前らは!」
「いや、だってヤバそうだったじゃないすか先輩!」
「お前らの役目はどうしたんだ!?」
「え、いや、ほら、あらかた終わったし、タケルとか伊織とか頑張ってるしいいかな〜、なんて……」
「すみません、僕は止めたんですが本宮が……」
「止めてねぇし!ノリノリだったしお前!『やっぱり、そんなことじゃ僕からボールは奪えないよ』とか前にも聞いた台詞で我先にと走ってたし!」
「言ってないね!いくらこの僕の名台詞とは言え、似た場面で二度も同じ台詞は吐かないね!」
「はぁーっ!?言わせておけばこの……」
「あの、二人ともそろそろ……」

インペリアルドラモンの言葉で、ようやく大輔と賢の終結は終結した。
太一やヤマトから見れば、元デジモンカイザーの天才少年がこのレベルの口げんかをするなんて……とか、このお調子者と一緒にいる内に彼の精神年齢も下がってしまったのでは……という不安も感じられたが、それよりも今は戦いの最中だ。
しかも自分たちは一対二で、若干と言わずピンチだったのだから、この援軍はかなり頼もしい。

「で、太一さん……あいつらはなんすか?羊っぽいのと、脱色ディアボロモン」
「あぁ……羊っぽいのは、ジョーカモンと組んでるらしいマッドサイエンティストだよ。手強いぞ。で……」

もう一体は太一の説明すら不要だった。
先ほどインペリアルドラモンの拳を喰らい、首と左肩が千切れ飛んでいたディアボロモンの胴体が、一度痙攣したかのように動くと立ち上がり、損傷した個所の再生を始めたからだ。

「……アレは、あんな感じだ」
「なるほど」

肩をすくめる太一に、大輔とインペリアルドラモンも唖然とする。
間もなくクローン・ディアボロモンは完全な状態へ戻り、ガルフモンはにやりと笑う。

「選ばれし子供の本宮大輔君、一乗寺賢君、そして名高き伝説のインペリアルドラモンですね?お初にお目にかかります、私はジョーカモン氏のプロジェクトアドバイザー、ガルフモンと申します。いやはや、貴方たちとまでお会いできるとは至極光栄……まぁ、この登場の仕方は少々乱暴なように思いますが、良いでしょう、私の実験にお付き合いいただけるのであれば」

にやついた笑いを止めないガルフモンに、大輔たちもまた嫌悪を感じた。
おまけにこの戦況、二対二とは言え、相手の一体に再生能力があるとなると、どう戦えば良いのか。

この状況の中で、最も思考を巡らせていたのは賢であった。
彼は顎に親指を当てながら、「再生能力のあるクローン」という点にひとつ、疑問を抱いていた。

「あのディアボロモン……」
「?」
「今までオメガモンと戦いながら、どんな戦術を取っていましたか?」

ヤマトがすぐに答える。

「オメガモンを腕で絡め取って、ガルフモンが狙い撃ち……で、撃たれる瞬間に逃げたかと思えば、また絡め取る、の繰り返しだよ」
「逃げた……?」

賢はその言葉を聞き、フッ、と笑った。

「ということは、あのディアボロモンは攻撃を受けたくない訳ですね?」
「?……あ!」

どういうことだ、という言葉を出す前に、賢の真意にヤマトも気付いた。

もし仮に「無限の」再生能力がディアボロモンに備わっているとしたら、攻撃を回避する必要など全くない。
だが、ディアボロモンは避けていた。
それはつまり、再生能力を持っていようとも、ダメージを受けるのは不利、ということではないか。
大輔がそのやり取りを聞きながら、疑問を呈す。

「痛いからじゃねーの?」
「見たところ、痛覚があるようには思えないね。それに元々そんな能力を持ってないデジモンを改造したのがアレなんだ。『無限の再生能力』なんて夢みたいなもの、備えられるとは思えないよ」
「へー、流石、お手製のデジモンを造ったことのある人は違うねぇ」
「うん、本宮、人の黒歴史に触れるのは止めてくれ」

自分の造った合成型デジモンのことを思い出してベッドで叫びながらゴロゴロするのは、家に帰ってからでもいい。
賢はディアボロモンを倒せる、という確信を持っていた。
オメガモンとインペリアルドラモン、二体の力があれば、再生能力があろうとも不可能ではない。

「作戦があるのか?」

立ち上がり、グレイソードを再び展開したオメガモンが尋ねる。
賢の答えはシンプルだった。

「あぁ──とにかく、力技で突破する!」
「──良い作戦だ」

聖騎士が構えると同時、竜人も翼を広げ、飛び立てる体制になる。
次の、四人の子供たちの指示は同時だった。

「「行けぇ!!」」

聖騎士と竜人が同時に飛び立ち、攻撃を仕掛けた。
白いディアボロモンが迎撃すべく、二体の前に立ちはだかる。
次の瞬間には、グレイソードがその身体を袈裟切りにしていた。
すぐに肉体の再生が始まるが、ポジトロンレーザーが再びその断面を焼く。
関節のない腕が後ろを取ると、素早く反転したオメガモンが砲撃し、腕を吹き飛ばした。

その様子を見ながら、ガルフモンはまだ笑っていた。
彼の笑いの奥に、彼らへの激しい憎しみがあることに、子供たちは一瞬でも気づいただろうか?





「──連絡が入りました。パンジャモン隊が現在交戦中です」
「そうか、予定通り……」
「あの、パンジャモンが死亡フラグを立てたそうですが」
「またか!いい加減余計なことは言うなと伝えておけ!」

コクワモンから報告を受けたゴッドドラモンは、表情を変えずに──明らかに声は苛立っているが──その場を後にした。

砂浜での戦いはオルガノ・ガードの勝利で終わり、戦線は島の中心、密林地帯にまで移動している。
簡易テントがいくつも立てられた海岸線で、ゴッドドラモンとザンバモンは部隊を島の中に送りつつ、次の戦略を練っていた。
辺りの戦いの後はまだ生々しかった。
崩れ落ちるか、今も炎上を続けている砲塔がいくつもある。
怪我をしたデジモンが何体もいるが、まだ周りに見える兵たちは軽傷で、軽口を叩いてる者が多い。
本当に重傷を負っているデジモンが別の場所にいるのは、時々テントの奥から聞こえる短いうめき声や、赤い十字が描かれたテントから響く絶叫によってすぐに分かる。

「ともあれ、我々は我々でできることをしなければ。折角得られた情報源だ」
ゴッドドラモンはザンバモンや他の隊長たちと共に、小型砲台の並ぶ埠頭まで歩いた。
破壊された砲塔の中でも、比較的元の状態を保っているものに、彼は繋がれている。

「なぁ、キングエテモン?」

王冠を頭に載せた金色のパペット型デジモンがそこにいた。
その身体は既にボロボロだが、顔はいつも通りの憎たらしい表情を浮かべており、彼を縛る縄さえなければすぐにでも殴りかかってきそうだ。

「なぁ、じゃないわよアンタ!!いきなり捕まえられて連れてこられたと思ったら、何なのよこの扱いは!?SMプレイする気がないなら離しなさいよ!!」
「煩いこの猿が!誰がSMだ!!」

キングエテモンはつい先ほど、島の中で発見され捕縛された。
彼にオルガノ・ガードと戦う意思は無かったが、だからと言ってブレイズ7の一体であるという事実は変わらない。
だから締め上げられ、ゴッドドラモンに尋問されるのも至極当然である。
ザンバモンが追撃の台詞を吐く。

「貴様にはたっぷりと聞きたいことがあるからな。よくぞこの島に戻ってきた」
「戻った?はぁ!?アチキたちブレイズ7はこの島の生まれじゃないの!それにココに来たのはアンタたちのためじゃなくてジョーカモンを潰すため!そこのトコ勘違いしてんじゃないわよ!!」
「……貴様、今ココで喉を掻き切っても良いのだぞ」
「ふん、やってみなさいよ!貴重な情報源を殺しちゃうの?……いいから早くこの縄解きなさいよぉ!!」
「上等だ、気に入った!今すぐその首切り落としてくれる!!」

他の隊長達が、太刀を抜こうとするザンバモンを必死に抑えるのを見て、ゴッドドラモンは大きな溜め息を吐いた。
この場にザンバモンが同席させるのは失敗だったかもしれない。
どう考えても彼とキングエテモンの相性は最悪だ。

「止めろ、ザンバモン……。キングエテモンよ、この島にお前だけで来たわけではないな?もう一体、ブラックインペリアルドラモンもこの島に侵入しているだろう」
「今更そんな確認する必要ないでしょう?言っとくけど、ブラックインペリアルドラモンは投降しないでしょうね。今はアチキよりも、彼の方が……気が狂ってるわ。気をつけなさい」
「心配には及ばん、我々にも優先順位があるからな。邪神竜が復活を阻止するという……早ければ今日中に終わるだろう」

その言葉を聞いたとき、キングエテモンは何かを思い出したように頭を上げた。

「そうよ……邪神竜よ!アンタたち、悠長に『邪神竜が復活するまでに終わらせればいい』って考えてるんじゃないでしょうね!?」

ゴッドドラモンは一瞬、言葉を詰まらせた。
『邪神竜が復活するまでに終わらせればいい』と考えている?
その通りだ。
それをタイムリミットとして、子どもたちを含む全員が行動していた。
だが、それがタイムリミットではない?

「アンタたち……ジョーカモンが今、誰と動いているかに気づいているの?誰と手を組んでいるのかを?」
「どういう事だ」
「今ここにある非合法の攻撃砲台、クローン技術。これだけのものを全て、四聖獣の目の届かない所で製造できるデジモンよ。心当たりがあるでしょう?」
「!」
「……そうか。やはり、メフィスモンか……」

メフィスモン。
デジタルワールドに存在する企業カルテルや化学工場、研究所の多くをその手に収める企業家であるとともに、多くの闇のデジモン──ヴァンデモンやデーモンなど──に手を貸した武器商人であるとされるが、経歴は一切不明。
彼の存在は四聖獣が長きに渡り認識していたものの、“裏の姿“は今まで一切捉えられなかった。

そのメフィスモンが、ジョーカモンと手を組んでいる。
これが意味する危険性を、ゴッドドラモンは即座に感じ取った。
メフィスモンは情報操作を得意としている。
彼はこれまでも、そうして追っ手を逃れてきたのだ。
オルガノ・ガードが今握っている情報を──数日前に手に入った、邪神竜復活までの残り時間を含めて──今一度、真偽を疑う必要がある。

そしてもう一つの問題点は……子どもたちが既に戦場に潜行している、ということ。
メフィスモン側は、彼らが戦場にいることを既に知っているのだろう。
子どもたちを戦わせるには、あまりにも危険な相手である。

「少しは状況が分かったかしら……子どもたちも危険なのよ!分かったらさっさとあのコ達を助けに行きなさい!」
「俺が行く。メフィスモンの首を掻っ切ってやる。ゴッドドラモン……」

この不快な猿に指図されるのは非常に不本意だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
ザンバモンは相方へ出陣の意志を伝えたつもりだったが、金の竜は彼ではなく、通信士の方を向いていた。
小さな通信士、コクワモンが新たな情報を持ってきたのだ。

「ゴッドドラモン、特殊部隊がまもなく到着します」
「何分で戦場に出られる?」
「10分以内に」
「分かった。私が指揮を取る」

キングエテモンは溜め息を吐き、竜に野次を飛ばす。

「アンタたちの仕事はいつも後手に回ってるわよね。今度こそ終わらせて頂戴。アチキたちだってもう嫌なんだから、こんなの」

ゴッドドラモンはザンバモンを引き連れ、その場を後にしようとすると……もう一度コクワモンの方を振り向いた。

「忘れるところだった。そこの猿を連れてこい。そいつにはもう少し働いてもらう」


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