時空を超えた戦い - Evo.36
八番目の複製 -2-






【MATRIXEVOLUTION_】



ギルモン進化!



金色のディーアークの輝きが啓人を包み、彼と彼のパートナーを一体化させる。
ギルモンの腕、足が聖騎士のそれとなり、全身が白銀の鎧に包まれる。
右手に聖槍、左手に聖盾が装備され、紅いマントが靡く。
そして啓人は、聖騎士の体内──テイマー・ボールの中から、敵の姿を見た。



デュークモン!!





聖騎士が槍を向けた先には、銀の獣竜がいる。
そして、そのテイマーがいた。

啓人とギルモンが、人間をパートナーに持つ究極体デジモンと相対するのは初めてであった。
しかも、敵は既にセントガルゴモンとガードロモンを倒し、シルフィーモンにも深手を負わせる力の持ち主だ。
獣竜型デジモン・ドルゴラモン、そして選ばれし子供・佐倉一人、彼らがいかなる理由でジョーカモンの側にいるのか、それは分からない。
だがどんな理由があろうとも、啓人たちはこの場で勝たなければいけない。

“デュークモン……負けられないよ、この戦い”

相対するドルゴラモンは、姿勢をやや低くとると、背中の翼をゆっくりと広げる。
白と蒼の二色で彩られた翼は、ドルゴラモンの胴体以上に大きく、展開するだけでその身体が二倍以上に大きくなったような印象を受ける。

「ドルゴラモン」

一人はドルゴラモンの後ろから、静かに指示を言い放つ。

「あまり時間はない。早めに終わらせろ」

目は敵から逸らさず、デュークモンが構えるのを確認すると、蒼銀の獣竜は静かに答えた。

「分かったよ、カズト」

大地を震わせるような咆哮の後、獣竜は飛び上がった。
翼を羽ばたかせるのではなく、跳躍によって一瞬の内にデュークモンの真上まで移動する。
上体を捻り、巨大な爪を振りかざす動きに、自由落下の勢いをつけた斬撃が来る──デュークモンは迎撃すべく、グラムを構えようとした。
だが次の瞬間、咄嗟に、デュークモンは槍ではなく盾を構える。
目の前に巨大な槍が飛んできたからだ。

鋭い衝撃がイージスを通じ、テイマー・ボールの中にいる啓人にまで響く。
盾を構えなければ、あるいは一瞬判断が遅れていれば、間違いなく貫かれていた。
槍の正体は、ドルゴラモンの巨大な尾。
上体を捻り、落下よりも遥かに早い速度で、巨大な槍を“振り下ろし”たのだ。

ドルゴラモンはそのまま、デュークモンへ肉弾戦を挑む。
紅蓮の聖騎士は今度こそ聖槍を振りかざし挑むが、如何せん、刺し抜くには距離が近づき過ぎている。
巨大な爪と、聖槍による鍔迫り合いが始まるが、間もなくデュークモンは、力比べでは獣竜に敵わないことを悟った。
力の差があり過ぎる。
同じ究極体であるカオスドラモンとの戦いでさえ、デュークモンはここまで押されはしなかった。

“デュークモン、後退だ!力じゃ勝てない!”
「く……!」

デュークモンはすぐにテイマーの声に従い、後ろへ跳び、下がっていく。
だが、ドルゴラモンもまた、自らのパートナーの指示に忠実だった。
彼はカオスドラモンと違い、戦いを遊戯として楽しむ性格は持っていない。
だからこそ、彼は「早く終わらせる」という一人の指示通り、全身全霊を込めた必殺の攻撃をすぐさま放った。

「!」

ドルゴラモンの両腕に炎が灯ったかと思うと、全身が赤色に発光する。
そして、再び地面を蹴ると、獣竜は真っ直ぐにデュークモンへと突撃した。
足元の大地が抉れ、周囲の岩壁と大木が巻き込まれる。

「ブレイブメタル!!」

破壊の暴風と化した獣竜が、紅蓮の聖騎士へ激突した。





「ふんぎぃぃぃぃぃぃ!!」
「ぬがぁぁぁぁぁぁ!!」

セクター329では、ベルゼブモンと警備隊最後の一人の力比べが行われている。
筋骨隆々、青い炎を纏った巨人と両手をがっちりと組み合い、ベルゼブモンはもう5分以上、握力の限界を絞り続けていた。
目の前のデジモンは完全体だが、握力はほぼ自分と同等らしい。
それならば猶更、負けるわけにはいかない。
もう腕は痺れ、鼻息が荒くなっているが、彼の負けず嫌いは依然として発揮されている。

「このヤロォ、俺様はベルゼブモンだぞ!さっさとくたばれってんだよ!」
「私に負けろだと!ブレイズ7次期オリジナル候補にしてロスト島警備隊長であるこの私、デスメラモンに負けろだとぉ!!」
「不自然な説明台詞吐く必要のあるボスキャラじゃねぇんだよテメェは!!」

ベルゼブモンは右足裏を相手の腿へ当て、一気に腰を落とす。
ブレイズ7次期オリジナル候補にしてロスト島警備隊長であるデスメラモンを、その勢いのまま自分の後方へ投げ飛ばした。

「ふんぬッ!!」
「ぐおっ!?」

この巴投げは見事に決まり、ブレイズ7次期オリジナル候補でありロスト島警備隊長でもあるデスメラモンは警備ポストへ激突した。

「ぬ……ぐ……ブレイズ7次期オリジナル候補にして……ロスト島警備隊長の……この……私が……」
「だからクドい!!」

そのまま、右腕の陽電子砲が警備ポストに向かって火を噴く。
最期の台詞を吐くことを許されぬまま、ブレイズ7次期オリジナル候補・ロスト島警備隊長デスメラモンは消滅した。



「ち……面倒なやつだ……」

ベルゼブモンはじんじんと痛む自分の両腕をだらりと下げながら、さんざん悪態をついていた。
思ったよりダメージが大きい。
だが、自分はまだ大きな、デジタルワールド全体を巻き込むほどの仕事の最中だ。
恐らく、自分と健良たちの働きで、ジョーカモンの塔の付近にいる警備兵はあらかた片づけた筈。
であれば、次の仕事は、啓人たちと合流し、今回の事件の首謀者を少しでも早く締め上げることだ。

ふいに、半壊した警備ポストに取り付けられた無線機が鳴り響く。
まだこの機械が機能していたことに驚きつつも──偶然にもデスメラモンの身体が盾となり、この通信機を守っていたのかもしれない──ベルゼブモンは受話器を取る。

“光子郎です、ベルゼブモン、聞こえますか?そちらの状況はどうですか?”

正直な所、ベルゼブモンは驚きを隠せなかった。
彼がジョーカモンの通信網をクラッキングするという作戦は聞いていたが、光子郎がここまで早く事を済ませるとは思ってもいなかったからだ。
それとも、自分の仕事が、考えているよりも時間が掛かってしまっているのだろうか?

「おう、聞こえるぞ。こっちはひと段落した所だ」
“了解しました。こちらも塔の司令室を占拠したところです。今は留姫さんたちが更に上階を目指して進んでいます”
「早っ……じゃあ、タカトたちはジョーカモンの所に行ったんだな?」

おいおい、とベルゼブモンは思う。
というか、早過ぎだ。中学生の癖に、なんだその作業速度は。
呆れにも近い驚きを覚えながら、ベルゼブモンは受話器を片手に、目の前に聳える巨大な塔を見ようとした。
だが、その視界に、別の大きな影が映った。

「……!!」
“いえ、それが、予想外の事態が起きているんです。ジョーカモン側にひとり、デジモンを連れた少年が現れたそうです。啓人くんとギルモンは……ベルゼブモン?聞こえてますか?”

その巨大な影は、体を揺らしながら自分の方へ近寄ってくる。
間もなくその巨体は一つではなく二つであることが分かった。
同じ形状、同じ種族だ。
どちらもオレンジ色の肉体を、銀色の武装が覆っている。

ベルゼブモンが何より驚いたのは、その二つの巨体が、彼のよく知るデジモンと同種であることだった。

「なんだ……なんで……?」

そのデジモンと同種のデジモンなど、今まで見たことがない。



「メガログラウモンがいるんだ……?」



オレンジ色の巨体、二体のメガログラウモンは、ゆっくりと自分との距離を詰めたかと思うと、胸の砲門を輝かせ始める。
ベルゼブモンはメガログラウモンという種をよく知るが故、それが攻撃の合図であることに気付くと、すぐに飛び上がり、その場から退こうとした。
ふいに、二体の両腕に刻印された文字が見える。

「……!?」

二体にはそれぞれ「N-08A」「N-08B」と刻まれている。
Nから始まるコードは、ジョーカモンのクローン製造番号だ。
なぜジョーカモンがメガログラウモンのクローンを作れたのか──思い当たる節が無いわけではない。
何日か前、デュークモンはジョーカモンと戦闘を行っている。
だが、たった数日で、新たなクローンが生まれたともなると……。

「クソッ……ヤツら全員、さっさと潰さ」

空中で陽電子砲を構える前に、背中に強烈な打撃を受け、ベルゼブモンは落下した。
痛みを感じる間もなく、自分を叩き落とした影が、自分目掛けて降ってくる。
その巨体はやはりメガログラウモンの姿を持ち、「N-08C」という製造番号が刻まれていた。

「三体っ……!!」

三体目のクローン・メガログラウモンは、仰向けのままベルゼブモンが放ったデススリンガーを避け、バーニアの火力を上げて落下してくる。

そしてそのまま、ベルゼブモンの上に落下した。
ベルゼブモンの左腕の上に。
何かが軋み、折れる音が響く。

「ぐおあああああぁぁぁぁぁっ!!」

激痛に絶叫を上げるベルゼブモンに対し、クローンの魔竜は容赦をしない。
三体のメガログラウモンは痛みの叫びに何の反応を示さぬまま、再び砲撃の準備を始めた。
左腕を踏みつけていたメガログラウモンが再び舞い上がったのを合図に、三体は同時にアトミックブラスターを放つ。
激しい爆発が起こり、崩れ落ちた警備ポストの瓦礫が、身動きの取れないベルゼブモンを覆っていく。

ベルゼブモンの前に現れてから、メガログラウモンたちは一度も声を発しなかった。
言語能力もそうだが、彼らは別の場所でオメガモンたちと戦闘しているクローン・ディアボロモンと同様、製造段階で感情に関するデータは全て削られていた。








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