時空を超えた戦い - Evo.14
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「っ…!?」

唖然となっているのは、先程二体のデジモンを倒した啓人の一行。

「…どうしたの?固まっちゃって」
「…だって、お前…」
「今、なんて…」


今、彼らの前には新たな刺客の姿があった。
目の前にいる敵。
その姿は、見る者全てを震撼させる。


「しょうがないなぁ。もう一度しか言わないよ」


不敵に笑う、そのデジモン。
全身が銀色に光り輝き、体の中心にある口には醜悪な笑いが広がる。

その正体とは。


「ブレイズ7の一人、プラチナスカモンとは僕のことだよ!」


……。


「…怖くて言葉も出ない?そうだよね〜、何せブレイズ7だからね、僕はっ!」

再び笑い始める、目の前の「強敵」を見ながら、大輔は額に汗を浮かべつつ、手を挙げる。

「ちょっ、タンマ!」

そう言って、全員で円を作る。


「(おいおい、どーすんだよ!?)」
「(ブレイズ7って、前に会ったデスモンと同じだよね?ゲンナイさんが言ってた…)」
「(嘘なんじゃないの?だって、プラチナスカモンだよ?)」
「(いや、でも…案外ああ見えて、メチャメチャ強いとか…)」
「(…ゆだんしちゃいけないでくるっ!)」

「あの〜、ちょっといい?」

プラチナスカモンの声で、全員がビクッと反応する。

「さっきも言ったけどさ、僕はキミたちの敵なんだよね。だから、キミたちをココから先に通すわけにはいかない」

その言葉には、ここで戦いが繰り広げられることも含まれている。
目の前にいるデジモンは確かに「弱そうな」部類に入るが、その言動や存在感には巨大な力が感じられた。

「…今から退いてくれるのなら、追わないでおいてあげるよ。僕は優しいからね〜」
「!…んだとぉ…。言わせておけば…」

流石に最後の言葉は、大輔の怒りを買ったようである。
仮に目の前にいるデジモンが敵の幹部だとしても、今の自分のパートナーは先程、圧倒的勝利を収め、気力充分。
しかも今は強力な味方もいるのだ。


「よっしゃあ…やっちまえ、啓人!」
「なんで僕なの!?」
「バッカヤロー…ブイモンは格闘系の攻撃ばっかりなんだぞ?お前のギルモンは成長期でも…」
「…あっ、そーか…」

本家のスカモンよりは「それっぽくない」とは言え、相手はやっぱり…な形をしたデジモン。
素手やら頭やらで攻撃するブイモンでは…ねぇ?
こんな下らない事で相談するのもどうかと思うが、イヤな物はイヤだ、うん。
そんな考察を知ってか知らずか、プラチナスカモンは余裕の表情を浮かべつつ宣言する。

「誰から来たってイイよ。僕に勝てると思うならねっ!」
「よし…ギルモン、先手必勝!」

言うが早いか、頷き前に出たギルモンの口内に、火炎のエネルギーが収束される。

まずは小手調べ…。


「ファイアーボールッ!!」


ギルモンの放った火炎弾は、一直線にプラチナスカモンへと向かう。
高速で自らに接近する火炎弾を見た彼の口元が更に歪んだ。

「さぁ!見るがいいさ、この僕の華麗なステップを!」

どうやってその体で「ステップを踏む」などという行為をするのかは全く不明だが、ともかくその姿からは想像もつかない程の勢いで横っ飛びをしたのは確かだ。
大輔たちが驚き、その姿を目で追う。
そして──


ドォォン!


爆音と共に、ちりちりと煙が上がった。
そして目の前にいたのは、火炎弾の直撃でぐったりと倒れるプラチナスカモン。

「「「…」」」


──避けられてねぇじゃん…。

そう思ったのは、その場にいた全員。


いや、まだ分からない。
敵は単に技を一発喰らっただけであり、まだ立ち上がってくる可能性は十分に考えられる。
身構えて、次の動きを待つ。

「…」

次に彼の口から放たれし一言。

「白旗…」



──マジっすか。
あんた、それでも本当に幹部ですか。

…ここまで呟いていたが、よくよく考えれば今、最もやるべき事は、大輔の仲間たちとの合流。
こんな所で道草を食っている場合ではないのだ。

「じゃあ…」
「あぁ、さっさと行くぞ!」

大輔と啓人を戦闘に、全員が通路を再び進む。
一番最後尾についていた樹莉とクルモンだけが、プラチナスカモンに向かって僅かに「ごめんね〜」「くる〜」と両手を合わせながら通り過ぎる。



やがて通路に残った、「黒こげの銀色の塊」もとい、「ブレイズ7の一体」。
哀れ…あっさりと撃破されてしまった幹部だが、意識をようやく取り戻しつつあった彼。

「…つ〜…あんなの反則だよっ…」

何とかその体を起き上がらせた、その時。


『どうした、「N-7」…』
「!?」

内に響く、その不気味で無機質な声。
それは言うまでも無く、彼の主の声である。

「…どっ、どういう事なんだよ!僕なら勝てるんじゃなかったの!?」
『…何を言う。戦いとは常に不確定の世界。勝利の確信など、油断以外の何物でも無い』

冷酷に響く言葉が、彼の心に突き刺さる。
それでも尚、彼は虚勢を張ることで自分の立場を取り戻そうとした。
動揺を言動の中から見出される事自体が、彼にとっては危険なのだ。

「…僕は、普通のデジモンとは違う!それは貴方自身が…」
『…虚勢を張れる理由は、貴様を"造った"のが儂であるからか?だからこそ、負けた理由、油断の理由が儂にあると?』
「ぐ…!」

先に、彼が言おうとしていた事を告げられた。
彼の創世者、それは──。

『根本的な間違いだ、「N-7」よ…だが…案ずるな。ある意味では、お前の言葉も正しい。貴様は"普通のデジモン"では無い』
「何を…!?」

言葉に、詰まる。
彼の中での「変化」は、直ぐに表情に、やがては外見にも表れ始めた。

腕が痙攣し、形状が太く変化する。
体系もゆっくりと変貌し、背丈が高くなる。
尚も、彼の主君の言葉は続く。

『お前の中にある扉を開放しよう…そして、儂にお前の真価を見せよ…』
「ぐ…うぁ…」

彼の変化はやがて、はっきりと確認できるまでとなった。
全身が輝き、その姿がゆっくりと変化していく。
その、あまりの急激な変化、そして共に襲い来る「反動」…やがて、彼はついに叫びを上げる。

「ぎ…ぁ…ぎぃああああぁぁっ…ぁぁああ…」

だが、その声はゆっくりと小さくなり…やがて、変貌が終了した時、既にそれまでの「彼」はそこには居なかった。




「おおぉぉぉっ!!」

堂々とした体躯を誇る兜の竜が、自分とほぼ同等の大きさの、黒色の恐竜型デジモンを頭から叩きつける。
ダークティラノモンの断末魔は、自身の消滅と共に掻き消された。

「…これで全部か?」
「そうみたい、だな…」

同じく、必殺の青い炎によって敵を始末した蒼い狼の言葉に、ヤマトが答えた。

敵デジモンの襲撃。
予想していたことではあったのだけれど、それでも彼らの「探し人」との合流前に出会いたくは無かった。
最初の敵は5,6体ほど。
それらは太一とヤマトのパートナーによって撃破されたが、何度も襲撃を受けてはこちらも持たない。
何としても、早くに「探し人」たちと合流したい所である。

「…大輔からの連絡は?」
「まだ無いようです…」

光子朗が苦い表情で、太一の質問に答える。
先程から、大輔たちとは音信不通。
このあたりの空間はさながら迷路のように入り組んでおり、連絡を取り合わなければ合流は難しい、というのに。

橙色の竜から退化した太一のパートナー、アグモンも、雲行きの怪しさを気にしているようで。

「…まさか、ダイスケたちも敵に襲われてるんじゃ…」
「…有り得ますね、こちらにもデジモンが出現した以上、敵はこの辺り一帯に手先を放っていると見ていいでしょうから…」
「連絡が取れない程の状況だとしたら…マズいな…」
「…何とか連絡取れまへんか?今のままじゃ埒があきまへんで!」

パートナーの言葉を聞き、光子郎は手を顎に当てて考えた。
今のまま、ここに留まる訳にはいかない。
取りえる選択肢は二つ、このままの状態で捜索を続けるか、多少リスクを背負ってでもスピードを上げるか。

「…光子郎」

太一が彼に声をかけた。

「今のままあいつらを探し続けても、手遅れになったら意味が無い…危険があっても、あいつらを助けることを最優先にするべきだろ」
「太一さん…」

光子郎が太一を見た。
迷いのない眼…伊達に業の道を進んできた訳ではないのだ。
やはり、彼は選ばれし子供たちの中の精神的リーダー…

「…そして、大輔には網走の監獄に入ってもらおうか!」

…いや、やっぱり恨んでるだけでは…。
しかも、さっきよりヒドくなってますよ、ペナルティの内容。

「…でも、太一さんの言うとおりですね。皆さん、今は大輔君たちの身の安全が第一です…ここは各自、手分けをして捜索しませんか?」

光子郎の提案は、各自の決意のもとに受け入れられた。
間も無く、全員の準備が整うと光子郎のパソコンへ注目が集まる。
文字通り迷宮のような、近辺のデジタル空間の地図が表示されていた。

「…何人かのグループに分かれて行動しましょう。まず…」


大輔発見の為、急遽行われた作戦会議。
一刻も早く捜索を開始せねば、それだけ危険は増大する。

──その状況の中、当の大輔一行は。





「…あ、光子郎さんに連絡忘れてたな…」
「ダイスケっ!何やってんだよ〜」
「いや〜、悪ィ悪ィ…」

ブイモンの叱責に頭を掻きながら答える。

「コウシロウさんたちが心配でもしてたらどうするんだよ〜…」

ブイモンの指摘は今正に彼らがやっていることなのだが、そのことをこの時点の大輔たちが知る由はない。

「…ともかく、すぐに連絡して合流を…」

大輔がそう言った、瞬間。


「「「!!」」」


その場にいたデジモンたちは確かに『感じた』。
その、背後からの気配を。

「…どうしたの、ギルモン?」
「…来るよ、タカト」


気配は急速に近づいて来ている。
自分たちが今まで進んできた道を確実に辿りながら。

デジモンたちが感じているそれは、眼に見える物でも、耳に聞こえる物でもない。
だが、戦闘種族であるデジモンたちの本能は、「敵意を持つ者」からその場に流れ込むデータを敏感に感じ取る。
彼らの感じるものは、人間の言う「第六感」よりも遥かに確実な物なのだ。


「新手、なの…?」
「いや、これは…」

レナモンが留姫の言葉を否定するが、彼女自身もまた、自分の感覚の導き出した答えを信じられずにいた。
それは確かに、先刻出会った敵と同じ物。
だが…。

「ヒロカズ…さっきよりも…強くなってるみたいだ…」
「ガードロ…モン?」

「さっき」という言葉、そこから連想される…先程の敵。

「…くるるぅ…」
「…逃げ切れないの?」

クルモンの怯えた様子に、樹莉が思わず発した提案。
だが、帰ってきたのはレナモンの「近過ぎる」という返答だけであった。

数秒間の沈黙、その場の状況は先程から全く変わっていないのに、彼らの中では緊迫感のみが渦巻いていた。
次に発せられたブイモンの言葉、それが合図となった。

「…来るよ!」


次の瞬間、啓人と大輔の間を、高速で「それ」が通過した。

「「!?」」

気配の持ち主は彼らの前に颯爽と降り立った。
まるで自分たちを追ってきたとは思えないほど、優雅な振る舞いで立ち上がる。

「会いたかったわぁ…ボウヤたち」

その姿は、先程見た同一のデジモンであるはずの「ブレイズ7の幹部」とは似ても似つかない。
紅いマントを羽織り、頭部には大きすぎる王冠。
全身金一色の、猿の着ぐるみのような何とも暑苦しい姿。
胸には何故かリアルワールドの漢字で「大王」と刻まれている。
…だが、それでもそいつは、あのプラチナスカモンの進化したデジモン、なのだ。

「お久しぶり…と言っても、ほんの数分前のことだったからしら?キキッ…」

言葉遣いさえ全く違うのに、そのどことなく下品な笑い方だけは変わりがない。

「…お前は、やっぱりさっきの…」

ブイモンが進み出て言う。
だが、その先の言葉は、目の前の敵が代弁した。

「プラチナスカモン…じゃあ、無いわねぇ。アチキは『今は』キングエテモンよぉ、ボウヤたち…」

笑みは言葉を続ける毎に広がっていく。

「よろしくねぇ、ボウヤたち。…と言っても、あと何分、アチキのコトを覚えていられるかしらぁ…ウキキキ…!」

自分の言った言葉がよっぽど見事だと思ったのか、ついに高笑いを始める。


が、次の瞬間キングエテモンの目の前には、蒼い竜の拳と、紅蓮の竜の刃があった。

「…悪いけど、今先を急いでるんだ。さっさとそこを退いてくれ」
「あるいは、今ここで喉を裂かれるか、どちらかだ!」

エクスブイモンとグラウモン、そして気づけば彼らの後ろでは、キュウビモン、ガルゴモン、ガードロモンが構えている。
その状況を無表情に一瞥するキングエテモン。

「…今そいつらが言ったことが聞こえなかったか?さっさと退け!」

大輔がキングエテモンに叫ぶ。


が、キングエテモンが退くことは無かった。
変わりに視界に移ったのは、彼の不気味な笑み、そして。

「がはっ…!!」
「ぐっ…!!」

二体の体が、激しい音と共に宙へと舞う光景だけであった。

「…な!?」

大輔は俄かに、目の前の展開を理解できなかった。
彼がようやく気づいたのは、彼と啓人の目の前に、それぞれのパートナーが倒れこんだ時。

「エクスブイモンッ!!」
「グ…グラウモン!!」

「一瞬で…!?」
「馬鹿な…」

留姫と健良の驚愕の表情には一切反応を示さず、ゆっくりと指の骨を打ち鳴らす、金色の究極体。
冷たく、悦びの表情を浮かべる。

「さぁ、アチキの餌食になりなさい…ウキャキャ…!」


僅か数分の間に、状況は激変していた。
その場に立つのは、唾を飲み苦い表情を浮かべる子供たち、そして彼らとは対照的な、不気味な笑みを浮かべるキングエテモン。





「止まれぇ、貴様らッ!」

毒々しい黄色と黒の二色で彩られた体を持つ昆虫型デジモン、フライモンが必死に叫ぶ。
彼の先から、二体の影が高速で接近してくる。

「ぐ…止まれっつってんだろうがぁッ!!」

尾を、こちらへと向かってくる脅威へ向けると、先から毒針が連続発射された。
だがその攻撃は尽く外れていく。

「な…」

次の瞬間、フライモンの体は深緑の体を持つ影の腕から突き出た刃によって両断されていた。
悲鳴を上げながらフライモンは消滅していくが、二つの影は速度を緩めることなく突き進んだ。

「この辺りは違う様です、ミヤコさん!」

紅く、突き出た二本の角を持つ巨鳥──もう片方の影の主が、背に乗るパートナーへ告げた。

「リョーカイ、賢くん、次のT字路は左に進んで!」
「分かりました…スティングモン!」

深緑の昆虫型デジモンの背に乗る少年が指示を出した。
フライモンを一瞬で撃破したそのデジモンは直ぐに命に従い、通路を横切る。


「…頼む、間に合え…」

一乗寺賢は、パートナーの背でただ一言、そう呟いた。




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