時空を超えた戦い - Evo.19
CRASH Stream 1:The parasitism






『Wise Joker』。

数年前、アメリカ国内で「生まれた」コンピュータ・ウィルス。
当時、一流ハッカーとして名を馳せておきながら、当局が全く足取りを掴めなかった米国の学生が作ったウィルスであり、
パソコンに潜伏後、数日間のうちに媒体のプログラムを全て学習し、その後破壊する。
しかし、このウィルスが他と違うのは、状況──自分にとって脅威となりうるワクチンの存在、
攻撃目標のセキリュティの度合い等──によって、自らを書き換え、
場合によっては全く別のプログラムへと「化ける」ことが可能な点である。
これによってウィルスは自らが攻撃対象となることを避けつつ、プログラムを学習してさらに知能を高め、破壊を続ける──
これは正しく「生きるウィルス」であった。

だが、このウィルスは公のパソコンに流出することは無かった。


『19歳の米天才ハッカー、自宅にて変死』


このニュースは当局が開発者の足取りを掴んだ二日後、全世界に報じられた。
捜査官がこの学生が暮らすアパートへと踏み込んだ所、そこに「存在した」のは、
そのウィルスが生まれたパソコンの前でぐったりと座り込み、瞳は食い入るようにウィンドウを見つめている少年の骸であった。


“good-by,my maker(さようなら、創造主)”


彼がその最期まで「見つめて」いたウィンドウには、純白の画面にこの一文だけが表示されていた。

その後の調査で、彼のパソコンにはまだ開発途中であった筈のウィルスによって侵され──
ウィルス自身は、既にそのパソコンから「逃げ出して」いたことが明らかとなった。

その後の世界規模の調査も空しく、ウィルスは発見されず、少年の死因も全く不明であるまま、
この事件は闇へと葬られていった。
慌しく現実を生きる人類には、世の動きを妨害させようとした子供の死など、さしたる興味は惹かせなかった。
そして、少年とウィルスは人々の記憶の中へと埋もれていった。





「…そのウィルスこそが、あなたの正体…違いますか?」

光子朗が彼を見つめながらはっきりとした口調で問う。
部屋の反対側に対峙する存在は、話を一通り静かに聴くと、答える。

「ふむ…今の所、合っているな。前もって敵の研究をするのは良いことだ」

まるで教師が生徒の善行を褒めるかのような発言。
光子朗の言葉は続いた。

「ここからは推測の域を出ませんが…貴方がそのハッカーのパソコンから逃げ出した後、
向かったのは現実世界のパソコンではなく、デジタルワールドだった…そしてデジタルワールドで学習を続け、
いつしかデジモンへと進化を遂げた…」
「やがて、今やデジタルワールドの神となる準備を済ませた。正解だ、友よ」

全身をローブで包んだ、不気味な模様の入った仮面のデジモン…ジョーカモンが低い声で笑った。
冷たく、恐ろしい笑い声が部屋に響く。

「儂は間も無く、この世界全体の命を握ることが可能となる『力』を得る。残念ながらお主らがその場に立ち会うことは無いが…」
「そりゃ無いだろうよ。お前の計画はここで潰れるんだからな」

大輔が彼の言葉が終わる前に叫ぶ。
既に彼らのデジモンは全て、子供達の前に出ていた。
各自が戦闘態勢に入り…全ての権化である元コンピュータ・ウィルスを睨んでいる。

「タイチ、用意はいい?」
「ダイスケ、オレ達はコイツの話を聞く必要は無いよ」
「タカト…あいつ、倒す!」

しかし、ジョーカモンにたじろぐ様子は無かった。
いや、最初から自分が彼らの前に直接進み出ているのだから、これ自体は当然なのだが…戦う様子すらも見せないのだ。
彼は体に纏う分厚いローブの中から手を出し──腐敗した人間の死骸の様な、毒々しい色をした異形の手──、彼らの前で広げた。

「早合点をするな、友よ。ここまでは面会だ。儂がすぐに戦いの場に出ては面白くはないであろう?」
「何を言って──」


突然、部屋中に轟音が響き渡った。
それと同時に、激しい揺れ。

「うおおっ!?」
「何や、何や!?」

無重力に近い状態であったデジタル空間に突然、重力が発生した。
安定とは無縁な、地震の如き揺れが子供達を襲い、立っていられなくなる。
一方で、未だに何事も無い様な落ち着きを保つジョーカモンは、重力の影響も受けず浮かんだままである。

「さて、ここからが本番…」
「っ…何だよ!?何する気だ!」

答えを聞く前に次の変化が訪れた。


地球儀が「割れた」。

部屋が突如としていくつかのパーツに分解し、その間からデジタル空間の外側の暗黒──それは紛れも無く、
一度迷い込んだら二度と戻って来ることの叶わない『次元の狭間』──が見える。
だがその暗黒が見える切れ目はやがて、新たに再構築されるワイヤーフレームによってすぐに見えなくなっていった。
ワイヤーフレームは分解した各パーツの端から放たれ、それぞれを囲い、新たに小さな幾つかの部屋を造りだす。
その、最下層の、まだ分解途中の裂け目は…今、子供達が立つ地点だ。

「ちょ…」
「やべぇ、やべぇって!」

やがて裂け目は幾つにも分かれ、子供達を分断した。
完全に裂ける寸前に、デジモン達がパートナーの元へと戻れたのが幸いと言うべきか。
やがて、子供達の眼下にも暗黒が広がる。

一瞬、別の裂け目へと飛び移ろうとした者が何人かいたが…踏み留まる。
今、起こっているのはまさしく、「空間の分断」。
飛び移ることなど不可能。
もしそれを実行すれば、その瞬間彼らの肉体は暗黒へと導かれ、この世から永久に葬り去られるのだ。

「全員動かないで!『落ちる』わよ!」

空が全員に叫び、他の者達も思い留まらせた。
だが、動揺の表情が消えることなど無い。
表情に余裕があるのはただ一人。ジョーカモンだ。

「良いかね、友よ。今行っているのはリフォームだ。間も無く、各々の元に私のしもべが参る…彼らと相手をし、
儂を楽しませてくれ」
「しもべ…ブレイズ7か!」
「ご名答。残念ながら、一人がまだ戻っていない様だが、これ以上君達を待たせる訳にもいくまい…
デスモンめ、何をやっているのやら。客人に粗相をやらかすとは…」

その一言で、先程の襲撃を思い出す。
今、デスモンの相手をしているのは…。

「丈…ミミ!京、伊織!」

やがて、分断されたパーツを覆っていくワイヤーフレームが目の前に広がっていき、
ジョーカモンやお互いの姿さえ確認しにくくなってきた。
分かれた部屋の内、子供達が取り込まれたのは6つ──
集団で取り込まれた者達も入れば、一組のみで部屋に呑まれた物もいる──、彼らの影も少しづつ遠くなり、
既に声でしか確認出来なくなっている者達もいる。
そんな中で、あの憎憎しい敵の声が聞こえてきた。

「さて、この中で何人が生き残ることとなるのか…戦いに勝利した者達には、儂が今度こそ直に相手をして差し上げよう…」
「てめェ…」

彼の姿を今、一番良く確認出来る小部屋に立つのは、運命の皮肉か…大輔であった。

「覚悟しとけ!ぶっ飛ばしてやるからな!!俺が…俺達が、てめぇを殺してやる!!」
「覚えておこう…健闘を祈る、友よ」

最後まで、笑みを崩さない邪悪の前に、彼はただ吠えることしか出来なかった。


一方で、啓人はギルモンと裂け目の前で固まっていた。
未だ揺れは収まっておらず、簡単に動く事も許されない。
少なからず、感じられる恐怖。

そんな中で、ギルモンは啓人に、ワイヤーフレームの間からまだ僅かに見える、別の小部屋を指差した。

「タカト、あれ!」
「…!」

そこから見えるのは、友人…博和、健太、樹莉、そして彼らのパートナー。
彼らはこちらを見ながら何かを叫んでいる──その眼にはしっかりと光を宿して。

考える前に、体が動いた。
彼らは、順調に形成され、無くなる寸前の「窓」の前へと走った。

「「啓人、ギルモンっ!!」」
「加藤さん!博和!健太!」

博和の目はしっかりと啓人を見据えていた。
博和だけではない。ガードロモンも、健太も、マリンエンジェモンも、樹莉も同様だ。
幸い、まだ声も聞こえる。


「啓人、俺らは信じてんぞ!」
「後で会おうぜ!必ず!」
「こっちはこっちで何とかするからな!」
「ぷぴぃっ!」
「死なないでね、二人共!!」


覚悟は決まった。
加藤さん達は生き残る。
彼らの眼には、それを確信できる全ての要素が内在している。



それなのに、自分達が生き残らなくてどうする?

「皆も気をつけて!!」
「ギルモン、タカト守る!頑張って!」


次の言葉は、二つの小部屋から同時に響いた。

「「「後で会おう!!」」」



次の瞬間には、全ての地球儀のパーツはワイヤーフレームに完全に覆われ、6つの小部屋となった。





一瞬、一際大きな揺れが起きたときに目を瞑ってしまった。
すぐに太一は目を開いたが、そこに広がっていたのは、今まで見ていた無骨なワイヤーフレームの部屋とはかけ離れた世界であった。

階段。

自分の立っている場所が段差のある足場だと気づくのに時間はそれ程かからなかった。
灰色の階段だ。
そこにあるのは…ただ、それだけ。
壁も、天井も無い。
目の前に登りの段が有り、数メートル先に、右へと曲がる踊り場があるだけである。
強いて付け加えれば、自分の視界を妨げる濃い霧、それくらいか。


…それだけ?


「…まさか」

壁が無いのだ。
ゆっくりと…「壁のない」階段から、その外側を見た。


「…ぅ、わ…ぁ…」

その瞬間、自分が危険過ぎる場所に立っていることに気がつく。
自分が立つ灰色の階段…その場は「塔」といった雰囲気である。
そして、この塔はとてつもなく「高い」。

目線を下げ、真下を見る。
地面が見えない。
真下に見えるのは…雲?
いずれにせよ、塔が建てられているはずの「地面」が全く見えないほど高い。

今度は目線をもう少し上げる。
反対側には、全く同じ形、高さ、色をした塔が5メートル程先に立っている。
いや…反対側だけではない。
右も、左も、前も、後ろも、全ての方角に、同じ様な塔がただひたすら雲の上、霧の中に、
整列の号令を掛けられたかのような正確さで並んでいる。
そして、この塔と言えば…頂上に段差があるだけで、この世界──
小部屋の中とは言え、余りにも広過ぎて「端」が見えない──には、他に何も無い。

「ここ…さっきの部屋かよ…?」


余りの変わり様に、ただ周りを見回すしかない太一。
とても奇妙だ。
雲の中に立つ不思議な階段の塔達。

…何かが──元々おかしな世界だが──何かが決定的に違う気がするのは、気のせいだろうか…。



「タイチ!」

気づけば、霧に包まれた目の前の階段からアグモン、ヤマト、ガブモンが降りてくる。
彼らの他には誰もいない。

「どうやら、ここに来たのは俺達だけみたいだ…無限の階段の世界に」
「…無限?」

一体、何が?
しかし、ヤマトは呆れ顔で自分を見つめるばかり。

「…お前、気づいてないのか?周り、見てみろよ」
「いや、変な雲の世界にいるのは知って…」
「そうじゃなくて、この階段」

ヤマトが指すのは足元、灰色の階段だ。
すると、ガブモンは指を、今まで自分達が「降りていた」方へと向けた。

「登ってみて」
「?ああ…」

言われるがまま、階段をひたすら登ってみる。
まず、踊り場があって、右へ曲がる。
しばらく進むと、また右。
さらに階段を上がると、また右。
尚も登ると、また右へ。

そこには…ヤマト、アグモン、ガブモンがいた。

「…は?」


理解不能。
どこかを間違えたのか?
そう考え、もう一度、同じ順路を登っていくと…やはり、三人に出会った。

???

「…な、なんか頭が爆発しそう…」
「分かったろ、コレで…無限の階段だよ、ココは」
「む、無限…」
「トリックアート、って見たこと無いか?これと同じ感じの…」


ひたすら登り続けるこの階段は、順路が何時の間にか登り始めた場所へと繋がる、「終わりの無い階段」。
どこかのだまし絵で見たことのある、目の錯覚を起こしそうな階段だ。

唯一だまし絵と違う所は、この階段が目の錯覚などではなく、実際に存在する階段であることだが。

「つ、つまり…この訳分からん階段の空間が、俺達の戦場って訳か?」
「…多分、そうなるな…」
「あ〜もぅ、メンドくせ…」

言葉はまた停止した。
この奇妙な空間に、初めて変化が起こったからだ。

太一達が頭上を見上げた時、それは開いた。
上空にパイプ型の通路が開き、そこから影が落ちてくる。
が、塔まで落下する訳ではなく、ある程度落ちるとゆっくりと落下速度を落とし、最後には空中で停止した。

ゆらり、と海月の様な動きで、再びこちらに殺気を向ける、ソイツは。



「キキキ…ボクガ相手ダヨ♪今度コソ、最後マデ遊ベル…」

デジモンの分類上、未だに種族と属性が解明されない、その異形の悪魔は、もう見たくも無いあの笑みを浮かべていた。

言葉を交わすまでも無く、四人は全ての状況を理解していた。
アグモンとガブモンは構える。
太一とヤマトはデジヴァイスを取り出し…奴を見た。

「…どうも俺達は、アイツとケリをつけなきゃならねぇらしいな」
「同感だ。どういう星の下に生まれたのか、俺達は…」

戦う構えを取ったことに、悪魔は満足そうであった。
笑みを更に深め、今にも攻撃を仕掛けてきそうな動きで…こちらを見続けている。

「殺ソウ、殺ソウ♪遊ビガ始マル♪壊レルマデ遊ベル♪」
「いこう、タイチ!」
「ヤマト!」

デジヴァイスが輝いた瞬間、二体のデジモンはそれぞれ反対方向に走り、灰色の塔から飛び降りた。

「「眼にモノ見せてやる!」」


激しい光が二体のデジモンを包むと同時、三段階の進化が行われる。
成熟期、完全体、そして究極体へと姿が変わり、強大な力を纏う。


アグモン ワープ進化!
ガブモン ワープ進化!



ウォーグレイモン!!
メタルガルルモン!!


二体の究極体が構えると、ほぼ同時にディアボロモンは光弾を乱射してきた。

「キキキキッ!!」

攻撃の激しさに太一とヤマトは身を伏せるが、既にそれぞれのパートナーへの指示は出していた。

二体は攻撃をかわしつつ飛び上がり、ウォーグレイモンは左側、メタルガルルモンは右側からディアボロモンに接近する。
この行動にディアボロモンは照準をずらし、腕を伸ばして切りかかった。

「ふっ!」

ウォーグレイモンは紙一重で爪を回避し、蛇の様な腕を抱え込んだ。
反対側のメタルガルルモンは腕を回避した後、両肩のミサイルを射出していく。



「奴を増殖させんな!」

最初にディアボロモンと戦った時でも経験した様に、ディアボロモンは自らをコピーする能力を持つ。
前と同じ様な、何万単位のディアボロモンの相手をすることとなれば、勝率は著しく低くなるだろう。
ディアボロモンと戦う場合、持久戦は危険なのだ。


だが。

彼らはそれ以外の可能性に気づいていなかった。
「既に戦いの前からそれが行われている」可能性を。
ディアボロモンとの戦いで二度勝利している事が、太一達に相手の行動を既に予測させていた…それが裏目に出たのだ。

「「「!!?」」」
「な…!?」
「もう…増えて…!?」

上空に亀裂が入り、そこから新たに四体のディアボロモンが出現する。
ディアボロモン達は最初に出現したディアボロモンを援護する様に、カタストロフィーカノンを連射し、
ウォーグレイモンとメタルガルルモンを攻撃した。

「うわっ!」

降り注ぐ弾丸の雨に、飛び退いて回避する他無い二体の究極体。
この行動を待っていたとばかり、合計五体のディアボロモンの追撃が始まった。

三体はウォーグレイモンへ、残りの二体はメタルガルルモンへと襲い掛かる。
急ぎウォーグレイモンは後退し、連続して放たれる光弾を避けるが、
間も無くディアボロモンが接近してくると両腕を使って攻撃を受けるしかなくなってきた。
一方でメタルガルルモンにも二体のディアボロモンが接近し、彼を追いやっていく。
連射されるカタストロフィーカノンは、メタルガルルモンが回避する度に階段の塔へと命中し、次々と塔を破壊していった。

ここに来て、ヤマトは気づいた。
ディアボロモンの攻撃には、ある一定のルールが存在している。

「…太一、奴らは二体を分断させようとしてるぞ!」
「えっ!?」

──確かに、二つのグループに分かれたディアボロモンは、それぞれが相手にする究極体を正反対の方向へと追いやっていく。
この場からでは分からないが、最早二体のパートナーはお互いの姿が霧で確認出来ない程の位置まで離されたのではないだろうか?

そうなると…太一とヤマトの頭に、嫌な想像が過ぎる。

「太一…こいつら、知ってるのかもしれねぇ…オメガモンの事を」
「…あぁ。その上でそれを警戒して、ウォーグレイモン達を引き離している…」

ジョグレスを行う場合、融合する二体のデジモンは距離をある程度まで近づけなければいけない。
わざわざここまで引き離すとなると、ディアボロモン達がジョグレスを警戒している可能性が感じられた。
これが本当なら…彼らは、個体としては別でも、嘗てのディアボロモンとの戦闘経過を既に学習しているのだ。

これは問題だ、そう感じたのは太一。
三体のディアボロモン相手に、ウォーグレイモンが単体で戦うのは余りにも不利だ。
二体を相手にするメタルガルルモンでさえ、勝率が高いとは言い難い。
まずは、この状況を変えなければ…。

「ウォーグレイモン!そいつらを振り払ってメタルガルルモンの所まで戻れないか!?」
「…やってみる!」

反転し、今はすっかり霧の中に隠れ、辛うじてメタルガルルモンの影のみが確認できる方向を見るウォーグレイモン。
よく見えないが、絶えずミサイルの発射音が響き渡り、時には煙によって更に姿が見えにくくなる事を考えると、
どうやら高速を誇る彼でも、自分の相手を処理するのに精一杯らしい。

頭上からの爪の攻撃を避け、竜人は飛んだ。
だが、三体全てに意識を配ることは難しく、次の瞬間には、
目の前に最も早くウォーグレイモンの動きに気づいたディアボロモンが立ちはだかる。

「く…」

このディアボロモンも腕を伸ばし、彼の体を貫こうとしてきた。
ここは一か八かの賭けだ…ウォーグレイモンは第一撃を回避すると、右腕のドラモンキラーを使い、頭を殴る素振りを見せる。
その行動にディアボロモンは頭を守ろうと左腕を上げた。
しかし、この防御体制によってディアボロモンの下腹部は完全に空いた。

「ハズレだ!」

ウォーグレイモンは右腕の動きを止めると、左半身を前に向け、回し蹴りをディアボロモンの体に直撃させる。

「ギ…」

ディアボロモンの体が攻撃によってぐらつき、仰け反る。
この絶好の機会を逃すわけにはいかない。
即座に両腕を上げ、竜人は大気中のエネルギーを集める。
収束された力は巨大な火球となり、彼の最大級の必殺技へと姿を変えた。

「ガイアフォース!!」

両腕を全力で振り下ろす。
火球はウォーグレイモンの意思に従い、彼の腕を離れ、ディアボロモンへと直撃した。

「ギ…ギギャアァァァッ!!」

ガイアフォースはディアボロモンの体を焼き尽くし…やがて威力が収まると、ディアボロモンが足から消滅していくのは確認できた。

「よっしゃあ!まず一匹!!」

少し離れた場所から、パートナーの声が聞こえた。
その声に、竜人は少しばかり笑い…そして、油断した。

「キキキ…」
「キヒヒ…」

後ろから、残り二体のディアボロモンの笑いが聞こえる。
彼らは襲い掛かっては来なかった。
その代わりに…たった今消滅した筈のディアボロモンが、まるで大気になったかのように──
だが、本物の大気ならこれ程邪悪な気は発すまい──そのシルエットを再び作り上げ、ウォーグレイモンの方へと向かってきた。

亡霊の様にゆらぎながら。
それは笑みを浮かべ、ウォーグレイモンの体に纏わりつく。

そして、亡霊の悪魔はウォーグレイモンと「同化」した。


「オメデトウ」


亡霊は一言だけウォーグレイモンの耳元に囁くと、その姿を消した。
その外見だけを。




キミは      ボクハ

誰だ?      キミダ

何を       キミト

する気だ?    一ツニナル


僕は       ボクハ

君だ       キミダ

僕は       ボクハ

新しい      新シイ

僕        ボク

なら       ナラ




今までの僕は、もう用済み?

イママデノキミハ、モウ用済ミ。






太一には分からなかった。
理解できなかった。
なぜ、あのディアボロモンは死して尚、笑いを止めなかったのか。
なぜ、残りの二体のディアボロモンは動きを止めたのか。
なぜ、ウォーグレイモンが動かなくなったのか。
なぜ、ウォーグレイモンの瞳が消えたのか。

なぜ…ウォーグレイモンの体に、毒々しい斑点が浮かび上がっているのか。


「ウォー…グレイ…モン…?」



呼び声に答える代わりに。
竜人の頭部、鎧の影となっている穴に、再び眼が戻った。

まるで、その瞳は。
あの異形の悪魔のような光を宿して。





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