時空を超えた戦い - エピローグ
イッツ・ア・ニューデイ




さっきまで雨が降っていた筈なのに、地下鉄を乗り継ぎ、バスに乗るために地上に上がると、何時の間にか天気は快晴になっていた。
吊り革から手を放し、ステップを降りると、更に歩く、歩く。
地図が無きゃこんな所には来なかっただろう。

「ちゃんと準備してきた?忘れ物は」
「無いって」
「本当?さっきのコンビニが多分最後だけど」
「寄らない」
「あっちで後悔しても知らないよ」
「知らなくて結構でーす」

ポニーテールの少女が、黒髪の少年にしつこく声を掛ける。
かなりの回数、続けて同じような質問を受けているらしく、少年の声には面倒臭さが色濃く浮かび上がっていた。
突然出現したゲートの場所はやや遠く、子供にとっては高い費用と、それなりの移動時間を要した。
そういう状況では出来る限り自分の好きなように動き、余計なことを考えたくないのだが、どうも彼女はそうさせるつもりがないらしい。

「大体お前、寝てなくていいのかよ?体力まだ戻ってねぇだろ」
「もう退院したからいいの」
「でも二、三週間は安静って言われたんだろ」
「だって、これ以上寝てたら身体が腐るわよ。今が成長期なのに!」
「無駄じゃないか?お前の身体ちっとも成長してねぇし」
「アンタね……」
「おい、痛ぇ!叩くな!」

入道雲の妨害を掻い潜った真夏の日差しが、肌にじりじりと刺さる。
少し強い向かい風が足の負担を増やすが、代わりに身体を冷ましてくれる恩恵があるので無風よりはマシだ。
今すぐ上着を脱ぎたい。
けれど、これから行く場所の気候がどうなっているかは分からない。

目の前に、金色に輝くデータの粒子が立ち塞がっている。
緑一面の景色の中、既にデジタルゲートは開いていた。
少年はデジヴァイスを握る。
粒子の向こうの景色は、まだ見えない。

「待ってるから。しっかり生きて帰ってきてよ」
「待たなくていい。いつ帰るか分かんないし」
「は!?学校どうすんの!?」
「夏休み終わるまでには帰るよ!啓人達も一緒に行くんだから問題ねーだろ!」
「さっき『いつ帰るか分かんない』って言ったじゃん!」
「あれは言葉の比喩だよ!」

短い口論が終わり、どちらともなく溜め息が出た。
蝉の鳴き声が聞こえる以外は、とても静かだ。

「はぁ。変わんないね、なんか」
「互いにな」
「ね、もうちょっと成長しようよ」
「これでも少しずつくらいは変わってんじゃないか?」
「失敗してばっかりだけどね」
「言うなよそういうこと」
「ふふっ……うん」
「笑うなって」
「あぁ、ごめん。面白くて」
「そんなに面白かったか、今の」
「うん」
「まぁ、いいや。啓人もう着いてんじゃねぇかな。待たせたら悪いし」
「みんなによろしくね」
「分かったよ」
「じゃあ」
「おう」



少年は振り返る。
少女の腰くらいの位置で、二人の会話を笑いながら見ていたパートナーへ言った。

「行くぞ、ドルモン」
「うん!」



歩き出す。
また始まる。

冒険はまだ、終わらない。










『時空を超えた戦い』

(完)


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